めぞん一刻

めぞん一刻〔新装版〕(1) (ビッグコミックス)

ラブストーリーなんてものは、主人公に「好きだ!」と言わせ、ヒロインに「あたしもよ!」と叫ばせ、しっかと二人が抱きしめあって熱いキスでもすれば、それで一件落着なんである。

しかし落着してしまうと連載が終わってしまい、作者が明日からどうすればいいか途方に暮れてしまうので、みんな話を引っ張るのに一生懸命なのだ。

そこで編み出されたのが「優柔不断だが一途な男のコと、美人だが気が強くて素直になれない女のコ」という設定である。ラブコメの根幹を成す大原則といってよろしかろう。

本当はお互い好きなクセに、スレ違いや意地の張り合いで、告白までにたどりつけない(話を引っぱれる)。

女のコはもともと美人だからライバルも多いが、およそモテないタイプの主人公にも何故か想いを寄せる美女が出てきたりしたら、こっちのもんだ(話をさらに引っぱれる)。ラブコメの醍醐味とはそのもどかしさなのだから。

『めぞん一刻』において高橋留美子が偉大なのは、この大原則を踏襲しながら、さらに「ヒロインが未亡人」という、およそラブコメにはふさわしくない設定を加えてしまったことにある。

主人公も、亡夫の面影をいまだ引きずっているヒロインの心の痛みを知り、なかなかお互いに一線を踏み越えられない。この重い十字架を背負った二人が、いかに結ばれて幸せを掴んでいくか。

なんせ二人が結ばれるまでには、浪人生だった主人公の五代くんが大学に入学・卒業・就職するまで(少なくとも4~5年)かかっているのである。ここまで引っぱれたのも、ヒロインの響子さんが未亡人だったからこそ。したたかな計算と言わざるを得ない。

この作品がもうひとつ革新的だったのは、ラブコメという体裁をとりながら二人のセックスシーンを描いてしまった点にある。

ラブコメはあくまで恋愛という名のファンタジーであり、非日常なトキメキを演出する幻想だ。そこにセックスという、あまりにも生々しくリアルな描写を挿入してしまったことによって、ドラマを日常的なレベルまで引き上げてしまった。

一刻館にむらがる尋常でないキャラを中心にしたドタバタ・コメディーは高橋留美子の独壇場。さらにはラブコメの王道を描きながら、ラブコメの禁じ手を描くというウルトラCまで披露。作者の周到な計算を感じる。

DATA
  • 著者/高橋留美子
  • 発売年/1980年
  • 出版社/小学館

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