魁!!男塾/宮下あきら

魁!!男塾 第1巻

ギャグとバイオレンスを絶妙にブレンドさせた、確信犯的バトルマンガ

宮下あきらは確信犯である。

彼は、『魁!!男塾』(1985年〜1991年)が荒唐無稽なストーリーであることを自覚しており、読者がツッコミをいれたくなるような状況を、意識的に造り出していた。ギャグ(いや、バカか!?)漫画として立派に成立してしまう、驚異のパラレルワールド・男塾。恐ろしいマンガである。

スタート当初はギャグ漫画そのものであった。第一話からそのおバカ度はスパークしている。気骨のある日本男子を育成している男塾では、フンドシ以外の下着は厳禁。しかしこともあろうか、一年生の剣桃太郎がウサギちゃんの絵柄のついたブリーフをはいていた、という事実が発覚する。

激怒した教官は、罰として一年生全員に恐怖の「直進行軍」を命令。これは行く手に何があろうと、とにかく真直ぐ進まなくてはいけないという、実にアホらしい罰ゲームなのである。

桃太郎以下一年生は命令通り直進し続け、途中にあった民家をたたき壊し、人の家のお葬式を台なしにし(ショックで死んだジイさんが生き返る)、最後は何故かヤクザと一戦まみえることになる。オチは教官のマイホームを「直進行軍」でたたき壊すという、実に下らないものであった。

やがてストーリーは次第に格闘ものへとシフトチェンジしていく。冨樫や虎丸、伊達やJなどのキャラが登場してまさに『ストリートファイター2』状態。

闘った相手は必ず味方になるという、「昨日の敵は今日の友」の法則(少年漫画の鉄則である)によって味方はどんどん溢れだし、インフレをおこして敵はますます強くなる。

「努力・友情・勝利」という少年ジャンプの三箇条を忠実に守りながら、同時期の『キン肉マン』(1979年〜1987年)や『ドラゴンボール』(1984年〜1995年)とは一線を画す”ツッコミどころ満載”というスタンスは継承されていった。男臭さすら笑いに転化できる、これが『魁!!男塾』の特殊性であった。

「少年ジャンプ」資本主義

恐らくどの読者もツッコミたくなったのが御存じ、大豪院邪鬼であろう。古今東西の漫画において、最もデカいキャラクターであるのは間違いない。推定身長27メートルは、ティラノザウルスをも優に超える。これで高校生っつうんだから恐れ入る(それにしても、高校生なのに男塾を十年もシメていたってどういうことやねん)。

何故か回を追うごとに背が縮まり、最後あたりはほとんど皆と変わらない身長になっていたのが謎ではあるが、少年漫画におけるインフレ現象の格好の例といえるのではないだろうか。

水戸黄門のように格闘シーンを定型化させてしまったのも、宮下あきらのスゴさである。一般的なパターンを書き出してみよう。

  1. 試合が終わり、冨樫と虎丸が「次はワシらの番じゃ~!!」とかいって猛ダッシュする。
  2. 「この相手はあなた方には荷が重すぎるな」と失礼なことを言って、別のキャラが結局闘う。
  3. 試合に望む味方キャラを、桃太郎がプチ解説。「~拳を極めた男塾きっての使い手。まったく、敵にしたら厄介な男だぜ」みたいな事を言う。
  4. 敵が繰り出したとんでもない技に男塾一同、唖然。そんな中、伊達が「あ、あの技は…」とフっておいて、技の解説をする。その前に必ず冨樫と虎丸が「知っているのか、伊達!?」と絶叫する。

このパターンだけで単行本にして数十冊分のエピソードを稼いでしまうのだから、まったくもってシブトイ漫画だ。

死んだはずの仲間が生き返ったりしてしまうのも、瀕死に陥った塾生が包帯を巻いたらすぐ回復してしまうのも、江田島塾長が「ワシが男塾塾長、江田島平八である」しか言わないのも、すべてはギャグ漫画としてスタートした名残りである。…多分。

とにかく、下らなさをトコトン突き詰めた宮下あきらを、僕はマジでエライと思うんである。

DATA
  • 著者/宮下あきら
  • 発表年/1985年〜1991年
  • 掲載誌/週刊少年ジャンプ
  • 出版社/集英社
  • 巻数/全34巻

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