アフタースクール/内田けんじ

アフタースクール [Blu-ray]

複雑に練り込まれたプロットを分かりやすくエンターテインメントに仕立て上げた、コン・ゲーム・ムービー

【思いっきりネタをばらしているので、未見の方はご注意ください。】

大泉洋にえらくご執心なS嬢が、やたら『水曜どうでしょう』を観ることを強要してくるのだが、僕は断固とした意思をもって拒否し続けているのである。そして同じく、やたらレコメンドされる大泉洋主演の『アフタースクール』(2008年)も、断固とした意思をもって拒否し続けてきたのである。

理由は至極簡単で、僕と同じ天パーかつ同年齢の大泉洋が、なんで婦女子にやたらモテてるんだ!という、嫉妬感情からである!

だってさ、大泉洋って絶対に変顔じゃね?僕は昔から、『ヘルボーイ』(2004年)でお馴染みの、ロン・パールマンに超クリソツと思っているのである。

いや、ロン・パールマンはいい役者さんですよ。でも類人猿そのものみたいなルックスであらせられる彼は、お世辞にもハンサムとは言い難い。よって僕の独断と偏見によって、パールマン系顔面の大泉洋もまた、モテ俳優としては認められないのである。

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『ヘルボーイ』(ギレルモ・デル・トロ)

しかし『アフタースクール』に対する頑なな拒否感が和らいだのは、本作が第82回(2008年度)キネマ旬報ベストテンの邦画部門で第10位にランクインするほどに評価が高く、かつ監督を務めているのが『運命じゃない人』(2005年)でカンヌ4冠に輝いた内田けんじである、と知ったからである。

という訳で重い腰をあげて鑑賞してみたところ、これが噂にたがわぬ素晴らしい出来。複雑に練り込まれたプロットを分かりやすくエンターテインメントに仕立て上げた、『スティング』を彷彿とさせるコン・ゲーム・ムービーであった。

とりあえず、全体の構成を簡単にまとめてみるとこうなる。

  1. 梶山商事に勤めるサラリーマン木村(堺雅人)が、身重の美紀(常盤貴子)を置いて突然の失踪。
  2. 裏家業で探偵を営んでいる北沢(佐々木蔵之介)の元に梶山商事の社員が現われ、木村の所在を突き止めるのように依頼される。渡された写真には木村と一緒に謎の女(田畑智子)の姿が。
  3. 木村の卒業した中学校に身分を詐称した北沢が現われ、木村の親友である中学教師・神野(大泉洋)と出会う。
  4. 北沢と神野は二人で木村探しを始める。やがて、木村はヤクザ組長の片岡(伊武雅刀)の情婦であった“あゆみ”というホステスと駆け落ちして逃げ回っていること、彼が勤めていた梶山商事がヤクザと繋がっていることが判明する。
  5. 北沢と別れた神野のアパートに、何と木村の姿が。実は身重の美紀こそが“あゆみ”であり、片岡から麻薬取引の事実を知ってしまった彼女は、助けを求めて神野と木村に相談。木村と一緒にいた謎の女は、婦人警官である神野の妹であり、彼女のとりなしもあって、二人は片岡と梶山商事の悪事を暴くべく、警察と連携をとって行動していたのだ。
  6. 木村は梶山商事社長の大黒(北見敏之)をうどん屋に呼び出し、麻薬取引の証拠の秘密資料と嘘をついてポルノDVDを渡す。大黒はそのまま別件逮捕される。

《1》~《4》まで、物語はほぼ佐々木蔵之介の主観によって進行する。真相を知らざる者をドラマの足場に据えることによって、何の予備知識もない我々観客の視点と正比例にシンクロするのだ。

しかし《5》以降、映画は急転直下の展開をみせて、主観が巧妙に切り替わって行く。まるでパズルのピースを巧みに配置するがごとく、主観映像を操作することによって観客をミスリードしていくのだ。

僕も鑑賞しながら「田畑智子にナンバーワン・ホステス役は、ちょっと無理がありすぎ!」と勘ぐってたんだが、実は常盤貴子が“あゆみ”だったとはねえ。一杯食った。

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不満を言えば、佐々木蔵之介が真相を知った《6》以降は、物語にサプライズが消え失せてしまい、やや起伏にとぼしい展開になってしまったことか。

さらに言えば、大泉洋が佐々木蔵之介に向かって放つ「学校なんか関係ないんだよ。お前がつまんないのは、お前のせいだ」というセリフは、屈託の無いイノセンスを屈託の無いまま肯定してしまっているような気がして、個人的にはちょっと気持ち悪い。中学時代のイノセンスをそのままキープできるオトナなんぞ、世の中になかなかいやしないだろう。

巧妙なプロットながら、全体的に漂う「甘さ」が生理的に受け付けられない作品ではある。その甘さを体現しているのが、大泉洋だ。僕はやっぱり『水曜どうでしょう』だけは観る気がしない…。

DATA
  • 製作年/2008年
  • 製作国/日本
  • 上映時間/102分
STAFF
  • 監督/内田けんじ
  • 脚本/内田けんじ
  • エグゼクティブプロデューサー/藤本款
  • プロデューサー/藤大岡大介、赤城聡、大西洋志
  • 撮影/柴崎幸三
  • 美術/金勝浩一
  • 照明/吉角荘介
  • 録音/橋本泰夫
  • 編集/普嶋信一
  • 助監督/村上秀晃
  • 製作担当/千綿英久
  • 音楽/藤羽岡佳
CAST
  • 大泉洋
  • 佐々木蔵之介
  • 堺雅人
  • 田畑智子
  • 常盤貴子
  • 北見敏之
  • 伊武雅刀
  • 山本圭
  • 大石吾朗
  • 尾上寛之

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