ブラック・ダリア/ブライアン・デ・パルマ

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デ・パルマが変態性の回帰を果たせなかった、ジェイムズ・エルロイ原作サスペンス

蓮實重彦センセイがデ・パルマの『ファム・ファタール』(2002年)に関して、「あの程度の女優(レベッカ・ローミン=ステイモス)でファム・ファタールかよ!」という正直な発言をされていた。

では、『ブラック・ダリア』(2006年)で物語のキーを握る美女役に、ヒラリー・スワンクというキャスティングに関しては、どのような印象を持たれたのであろうか。大変気になります。

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『ファム・ファタール』(ブライアン・デ・パルマ)

そもそも僕は昔からデ・パルマの女優の使い方に一家言あって、ナンシー・アレンとかメラニー・グリフィスとか、“オツムは良くないんだけど素直で可愛いビッチ系”は自身の好みもあってか非常に魅力的なんだが、ミシェル・ファイファーとかエマニュエル・ベアールとか、ちょっと知的なブロンドガールになると、途端に色気がスクリーンから胡散霧消してしまう。

本作におけるヒラリー・スワンクにいたっては、何をいわんや。そもそも、エリザベス・ショートを演じるミア・カーシュナーに似ているという設定が無理すぎ。1ミクロンたりとも似てないっつーの!

ぽってりとした唇とエロすぎるバディーで、僕のハートをわしづかみにしたスカーレット・ヨハンソン嬢も、本作ではその魅力がほとんど引き出されていないと思う。実生活でも恋仲となったジョシュ・ハートネットとの絡みが、全然セクシャルに見えないっちゅーのはどーゆーことか。

ヒッチコックが、晩年アメリカを離れてイギリスで撮影した『フレンジー』(1972年)で、己の変態性を再獲得したのに対し、『ミッション・トゥ・マーズ』(2000年)の興行的大失敗でハリウッドを追放されたデ・パルマは、フランス資本の『ブラック・ダリア』においても、変態性の回帰は果たせなかったのである。

『ブラック・ダリア』はジェイムズ・エルロイの「L.A.四部作」の第1部を映画化したものだが、第2部『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)は、すでにカーティス・ハンソンの手によって映画化されている。

1953年のロサンゼルスを舞台に、腐敗しきった警察機構とその対立をノワール・タッチで描き出し、今では揺るぎない評価を受けている傑作だ。

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『L.A.コンフィデンシャル』(カーティス・ハンソン)

何よりもヴェロニカ・レイクにクリソツという設定の娼婦役を、キム・ベイシンガーがほとんど地としか思えない(?)白痴さでもって演じて見せたことに、価値がある作品だったと思う。

フィルム・ノワールという一風変わったジャンル映画においては、何よりもオンナが魅力的であることが必須条件。『ブラック・ダリア』の最大の瑕疵はここにある。

あと、本筋に関係ないプロットや場面が張り巡らされすぎ!!という問題もあるのだが、これは個人的には好意的に捉えています。確かに「最初のボクシング・シーン、いらなくね?」とか、「警察署内での地震ってナニ?」とか、「スカーレット・ヨハンソンの体の傷にまつわる元カレ・エピソード、意味ねーし!」とか、シナリオ的に贅肉がありすぎて肝心のサスペンスが一本筋で機能していないのは、その通り。

しかーし!!ブライアン・デ・パルマ作品に、そもそもまっとうなステーリーテリングを期待するのが、大間違い。ストーリーを逸脱してしまうほどのデ・パルマ的脂肪分こそが、思わず噛り付きたくなる旨味成分なのだ。

それが重すぎてお口に合わないというのであれば、そもそもこの食材が受け付けられない、ということ。『ブラック・ダリア』からデ・パルマ的脂肪分を取り除いてしまうと、そうとうに薄味でソッケない映画になってしまうだろう。

「一見ドラマには何の関与もしていない諸々のファクター」こそが、エルロイ的暗黒絵巻を醸成する隠し味として、画面の隅々に行き渡っているのだ。

題材はデ・パルマ好みだし、冒頭のL.A.の暴動シーンやエリザベス・ショートの死体が発見されるシーンで、垂直方向にカメラを動かすなどデ・パルマタッチもふんだんに披露されている本作。

とはいえ前述した通り『ファム・ファタール』に引き続いて女性描写に失敗したのが響き、全体的に吸引力のない映画になってしまっていることは確か。

そもそも彼にノワールは似合わないんではないか?官能性よりは変態性を、クールよりはウィアードを追求していただきたい所存。その意味で、かつてのデ・パルマ組俳優、ウィリアム・フィンレイがギョロ目を剥き出しにしてスクリーンいっぱいにアップになるショットこそ、最もデ・パルマ的な瞬間だと思われます。

DATA
  • 原題/The Black Dahlia
  • 製作年/2006年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/120分
STAFF
  • 監督/ブライアン・デ・パルマ
  • 脚本/ジョシュ・フリードマン
  • 原作/ジェームズ・エルロイ
  • 製作総指揮/ボアズ・デヴィッドソン、ロルフ・デイル、ダニー・ディンボート、ジェームズ・B・ハリス、ヘンリク・ヒュイッツ、ジョセフ・ローテンシュレイガー、トレヴァー・ショート / アンドレアス・ティースマイヤー、ジョン・トンプソン
  • 製作/ルディ・コーエン、モシュ・ディアマント、アヴィ・ラーナー、アート・リンソン
  • 撮影/ヴィルモス・スィグモンド
  • 編集/ビル・パンコウ
  • 美術/ダンテ・フェレッティ
  • 衣装/ジェニー・ビーバン
  • 音楽/マーク・アイシャム
CAST
  • ジョシュ・ハートネット
  • スカーレット・ヨハンソン
  • アーロン・エッカート
  • ヒラリー・スワンク
  • ミア・カーシュナー
  • マイク・スター
  • フィオナ・ショウ
  • レイチェル・マイナー
  • リチャード・ブレイク
  • ケビン・ダン
  • マイケル・P・フラニガン

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