時計じかけのオレンジ/スタンリー・キューブリック

キューブリキズム(そんな言葉ないけど)が最も充満した、真性鬼畜映画

4人の若い男に妻をレイプされたうえ、脳腫瘍のために余命いくばくもないと診断されてしまった作家、アンソニー・バージェンス。不幸このうえない彼が、残される家族への遺産がわりにと筆をとった近未来SF小説が、『時計仕掛けのオレンジ』(1971年)である。

『時計仕掛けのオレンジ』(アンソニー・バージェンス)

セックス・ピストルズのポール・クックも「俺はあんまり本は読まないんだけど、『時計仕掛けのオレンジ』はクールで超好きだぜ!オーイェー!」と公言しているくらい、ヤバい小説である。そんなヤバい小説を、映画界の”マエストロ”スタンリー・キューブリックが映像化したもんだからいよいよヤバい。

あらゆる快楽行動を禁欲的な目線で撮るスタイルは、キューブリックの十八番。しかし『時計仕掛けのオレンジ』には、あり余るエネルギーをセックスとバイオレンスで消費する主人公アレックスへの共感が少なからず感じられる。

それは暴力の肯定ではなく、とりあえず倫理的な問題はさしおいて、暴力とは絶対的な快感であることの証明なのだ。

例えば、アレックス役のマルコム・マクドウェルが、キューブリックに「何か歌詞を覚えている歌はないか」と訊かれて選んだという、「雨に唄えば」を歌いながら作家夫人をレイプする有名なシーン。

室内での撮影でありながら、F9.05の明るいレンズを使用することによって、ハサミで切り取られた作家夫人のピンク色の乳首が鮮明に露出される。

超広角の歪んだ空間で描き出される、エロティック・バイオレンス・カーニバル。キミは不快で吐き気を覚えたか?怒りのあまり途中で劇場を後にしたか?スンマセン、僕は高揚感を覚えました。

『雨に唄えば』(スタンリー・ドーネン)

エドワード7世時代風のファッションに身を包み、ナッドサット(バージェンスは8ケ国語を操る言語学者でもあったので、ロシア語を元にナッドサットなる未来の若者言葉を創案したのだ)を操り、ベートーベンをこよなく愛し、オンナの子二人と楽々ベッドインする健康不良少年アレックス。

なにものにも管理されない自由奔放な生き方、フットワークの軽さは、“未来世紀のミック・ジャガー”とも呼称すべき不遜な光を放つ。その存在は社会悪かもしれないが、まずオスとしてカッコイイし、何より魅力的なのだ。

アンチヒーローのアレックスは、しかしルドビコ式心理療法なるマインド・コントロールによって、人畜無害な模範的少年に更正させられてしまう(誰かに殴られても、殴り返そうとするたびに吐き気をもよおすんだからトーゼンだ)。

去勢状態で釈放されたものの、今まで暴力をふるってきた人々から迫害を受けてしまうという矛盾。そのマインド・コントロールが解かれ、真人間に戻ったことを証明するがごとく、紳士・淑女の前でノータリン・ギャルたちをレイプしまくるラストーシーンの衝撃。

ヘタをすればこの物語は多分に教養的になってしまう危険性がある。キューブリックはそれを回避するために、セックスシーンを早回しでコミカルに、暴力シーンをレニングラード国立バレエ団のごとく優雅に創り上げた。用意周到に計算されたポップなBGMは、ベートーヴェンやロッシーニをシンセサイザーで編曲したもの。

重低音が妙にねちっこくて耽美的だなあと思っていたら、音楽を担当したウォルター・カーロス氏は真性のホモセクシャルで、その後性転換してウェンディー・カーロスと名乗ったらしい。やっぱりソレ系の方は独特な感性がありますね。

強烈なアイロニーとニヒリズム。全体主義に対する痛烈なアンチテーゼ。キューブリックのフィルモグラフィーのなかでも、キューブリキズム(そんな言葉ないけど)が最も充満した真性鬼畜映画が、『時計仕掛けのオレンジ』である!!と断言してしまおう。

「この映画って暴力礼賛主義っぽいからキライ!」なんて奴を見かけたら、アレックスよろしく殴っちまえ。殴ってよし!

DATA
  • 原題/A Clockwork Orage
  • 製作年/1971年
  • 製作国/イギリス
  • 上映時間/137分
STAFF
  • 監督/スタンリー・キューブリック
  • 製作/スタンリー・キューブリック
  • 脚本/スタンリー・キューブリック
  • 原作/アンソニー・バージェス
  • 撮影/ジョン・オルコット
  • 音楽/ウォルター・カーロス
  • 美術/ラッセル・ハッグ、ピーター・シールズ
  • 編集/ビル・バトラー
CAST
  • マルコム・マクドウェル
  • パトリック・マギー
  • ウォーレン・クラーク
  • ジェームズ・マーカス
  • マッジ・ライアン
  • マイケル・ベイツ
  • エイドリアン・コリ

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