主人公のコンドル(ロバート・レッドフォード)は、CIA下部組織のアメリカ文学史協会で、世界中の出版物を分析しては、諜報活動に使えそうなネタをレポーティングするという、地味仕事に従事するスパイ。
そんなコンドルが、何者かによって局員が皆殺しにされるという事件に巻き込まれ、運良く難を逃れた彼が、事態の真相に迫ろうと奮闘する…というお話。
つまり、ジェームズ・ボンドやジェイソン・ボーンのように特殊能力を持ったスペシャリストではなく、単なる読書係がスパイさながらの冒険を繰り広げる、というのがミソ。
しかしながらロバート・レッドフォードは生まれながらのスターなんであって、ホントであれば読書で得た知識のみでCIAと立ち回ろうとするひ弱な青年を演じるべきところを、人並みはずれた行動力と的確な判断力で、窮地を切り抜けて行く凄腕諜報部員として体現してしまう。
おまけに拉致したフェイ・ダナウェイのハートもわずか数時間でモノにしてしまい、易々とベッドインするとは、本家ボンドも真っ青なプレイボーイぶり(晩秋の写真を時折インサートしながら描かれるベッドシーンは、シドニー・ポラックの思い入れたっぷりな演出もあって、観ているこっちがちょっと気恥ずかしくなってしまった)。
これだけヒーロー然とされてしまうと、組織の末端の人間が見えざる巨大な敵に翻弄されるという感じが微塵もなくなってしまうんではないか。
という訳でレッドフォードの演技プランには不満だらけなのだが、まるで腕の良い職人のごとく冷徹にコトを処理していくマックス・フォン・シドーの殺し屋っぷりには、ヒリヒリするような凄みがあって圧倒されてしまう。
この『コンドル』が公開される2年前に、祈祷師として悪魔と激しい戦いを繰り広げたお方とは、にわかに信じ難いものがあります(もちろん『エクソシスト』のことです)。
シドニー・ポラック映画の常連であるデイヴ・グルーシンによるジャジィな音楽も、独特の寂寥感と孤独感を表現していてなかなか良ろし。
トム・クルーズ主演の『ザ・ファーム 法律事務所』では、グルーシンによるスコアが全く機能していなかった記憶があるのだが、これはやはり時代的な差異か。考えてみれば、’70年代のポリティカル・サスペンスの主人公たちは、すべからく皆孤独を抱えたまま終幕を迎えている。
ロバート・レッドフォードに多少問題はあるものの、『コンドル』はまさにそれを忠実になぞった映画と言えよう。
- 原題/Three Days of the Condor
- 製作年/1975年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/118分
- 監督/シドニー・ポラック
- 製作/スタンリー・シュナイダー
- 製作総指揮/ディノ・デ・ラウレンティス
- 脚本/ロレンツォ・センプルJr、デヴィッド・レイフィール
- 原作/ジェームズ・グラディ
- 撮影/オーウェン・ロイズマン
- 音楽/デイヴ・グルーシン
- 美術/スティーヴン・B・グライムズ
- 編集/フレドリック・スタインカンプ
- ロバート・レッドフォード
- フェイ・ダナウェイ
- マックス・フォン・シドー
- クリフ・ロバートソン
- ジョン・ハウスマン
- アディソン・パウエル
- マイケル・ケイン
- ハンク・ギャレット
- カーリン・グリン
- ウォルター・マッギン
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