ダーティハリー/ドン・シーゲル

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都会に放たれた2匹のハンターによる死闘。’70年代刑事ドラマの傑作

共産圏との代理戦争として始まったものの、年を重ねるごとに泥沼化し、最終的にはニクソンの“勇気ある撤退”という決断によって終結を迎えたベトナム戦争。

しかし、超大国アメリカには巨大な負債が残された。それは警察機構の腐敗、すなわち“正義”という名のモラルの喪失である。

そんな時代に呼応するように、’70年代アメリカ映画には、アウトロー刑事が活躍するアクションが数多く作られた。

その真打ち的存在が、『ダーティハリー』(1971年)のキャラハン刑事!当初はフランク・シナトラが演じる予定だったというこの型破りな刑事を演じるは、我等がクリント・イーストウッド。

当時の彼は、マカロニ・ウェスタンで名を上げた中堅俳優だった。まさに『ダーティハリー』とは、正義不在の時代に登場した法の執行官だったのである。

『ダーティハリー』のオリジナルタイトルは『DEAD RIGHT』。「死んだ権利」とは、容疑者を逮捕する際に「お前には黙秘権と弁護士を呼ぶ権利がある…」と通達するアレのことで、俗にミランダ権でと呼ばれている。

1966年、少女誘拐・レイプで有罪判決となったアーネスト・ミランダが、黙秘権や弁護士を雇う権利を知らなかったために逆転無罪となったことから、ミランダ権の通達が義務付けられるようになった(そのあたりの経緯は、町山智浩氏の『映画の見方がわかる本』に詳しい)。

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『映画の見方がわかる本―『2001年宇宙の旅』から『未知との遭遇』まで』(町山智浩)

しかしこれじゃあ、確かに加害者の権利は守られるものの、被害者の権利が文字通り「死んでいる」訳で、『DEAD RIGHT』というタイトルには強烈なアイロニーが隠されているのだ。

「俺が法律だ!」と言ったのは検事Mr.ハマーだったが、ダーティハリーは法によって裁けなかった悪人を、自らの倫理観に基づいて審判を下す、アスファルト・ジャングルのハンター。

彼が愛用する44マグナムは、もともと大型動物をハンティングするための武器なのであって、まさにダーティハリーはハンターという呼び名がふさわしい。

だからこの映画は、「法の裁判官と凶悪殺人犯」という型どおりの構図ではなく、都会に放たれた2匹のハンターによる死闘とも言うべき装いをまとっている。

体制側の人間が反体制的なアウトローとして描かれるというのは、『フレンチ・コネクション』のポパイ刑事にも言える感覚だが、やっぱそれって実に時代的だと思う。

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さらにこの映画が出色なのは、異常犯スコルピオのバックグラウンドを完全に削ぎ落としてしまっていること。冒頭のプールで泳ぐビキニ美女の射殺から、ラストのバスジャックまで、その行動原理は全く説明されないままジ・エンドを迎える。

その不条理さがいかにも70年代アメリカ的だし、アクションドラマとしての純度を高めている最大の要因となっている。

という訳で結論としては、刑事ドラマの傑作だと思います。

DATA
  • 原題/Dirty Harry
  • 製作年/1971年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/103分
STAFF
  • 監督/ドン・シーゲル
  • 製作/ドン・シーゲル
  • 製作総指揮/ロバート・デイリー
  • 原案/ハリー・ジュリアン・フィンク、リタ・M・フィンク
  • 脚本/ハリー・ジュリアン・フィンク、リタ・M・フィンク、ディーン・リーズナー、ジョン・ミリアス
  • 撮影/ブルース・サーティーズ
  • 美術/デール・ヘネシー
  • 音楽/ラロ・シフリン
  • 編集/カール・パインジター
CAST
  • クリント・イーストウッド
  • ハリー・ガーディノ
  • アンディ・ロビンソン
  • レニ・サントーニ
  • ジョン・ヴァーノン
  • ジョン・ラーチ
  • ジョン・ミッチャム
  • アルバート・ポップウェル
  • ジョセフ・ソマー
  • メエ・マーサー
  • リン・エジングトン

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