Dolls/北野武

Dolls[ドールズ] [Blu-ray]

日本の四季折々の美しさを余すことなく「色」で描く、デコラティヴすぎるファンタジー

『Dolls』(2002)はかぐわしいほどに美しいファンタジーである。いや、美しすぎる。

これまでのキタノ映画では、あらゆるエモーションはザックリと削ぎ落とされ、それ故にヴィヴィッドな皮膚感覚を観る者に与えてきた。それは色調においても顕著。北野映画の常連・撮影監督の柳島氏はこんな発言をしている。

『キッズ・リターン』(1996年)は本当はモノクロで撮りたかったが実現できず、結局青ベースの色彩設計になった。画面の中からよけいなものを取り除いていったら、それがキタノ・ブルーと呼ばれるものなったんです

そう、キタノブルーの純度の高さは、その排除の美学に端を発しているのである。だとすれば、日本の四季折々の美しさを余すことなく「色」で語ろうとした『Dolls』は、明らかにデコラティヴすぎる映画ではないだろうか?

山本耀司の衣装はギャグ以上の何物でもなく、久石譲の音楽はおセンチなBGM以上の何物でもない。

特に山本耀司は「僕のファッションショーにさせてもらう」なんてぬかしやがったらしいが、映画と映像の違いが分かってないとしか思えない発言です。映画の一要素であるはずの衣装がイニシアチブをとってしまっては、映画そのものが崩壊してしまうのは自明の理だ。

『Dolls』は今までの北野映画の中でも特に観念的な映画だから、新しい色彩で物語を綴ろうとしたのかもしれないが、映画の主題と方法論が噛み合っていない印象を持ってしまうんである。

この映画には「空虚」がない。過去の北野映画で見受けられるような、あのスタティックで残酷な程の静謐さがない。何もない映画なら、何もないことを描くことに専念して欲しい。西島秀俊や菅野美穂がみせる虚無感の漂う佇まいを、過剰な音楽と衣装が邪魔をしている。

3つのエピソードの中で一番印象に残ったのは、深田恭子演じるアイドル(そのまんま)と彼女のおっかけをしている青年・温井の話。事故により顔に大ケガを負ってしまい、そのままアイドルを引退してしまう深キョン。

そして、彼女の心中を察して自ら目を突いてしまう男。おもいっきり「春琴抄」のパクリなんだが、せっかく文楽人形が狂言まわしを務めるんだから、逆に3つのストーリーをすべて古典からもってくればよかったのに。

逆に観ていて辛かったのは 、高年齢者コンビ・三橋達也と松原智恵子のお話。昔の約束を果たすために何十年も待ち続ける女なんて、ちょっとギャグにしかみえない(しかもあの衣装で)。松原智恵子は意識的にちょっとイタい女を演じていたが、観ているこちら側もイタかった。

春琴抄 (角川文庫)

北野映画では登場人物がやたら死ぬが、結局この映画でも6人のカップルのうち4人が死亡(男性軍は全滅)。特に盲目のおっかけ男・温井は唐突に死ぬ。本当に、唐突に死ぬ。

「『冥途の飛脚』も死ぬとわかっているから観客は泣くのであって、逃げおおせたら2人は犯罪者だ」と北野武は言う。だとすれば、彼は「観客を泣かすため」だけに死んだのか?

ロマンチストであるが故に、純愛を貫いた者たちを北野武は映画の中で殺してきた。しかしこの温井というキャラクターだけは、何の必然性もなく死んでいく。この疑問が今でも僕の脳裏をかすめるのである。

DATA
  • 製作年/2002年
  • 製作国/日本
  • 上映時間/113分
STAFF
  • 監督/北野武
  • 脚本/北野武
  • プロデューサー/森昌行、吉田多喜男
  • アソシエイト・プロデューサー/川城和実、古川一博、石川博
  • 撮影/柳島克己
  • 音楽/久石譲
  • 編集/北野武
  • 衣装/山本耀司
  • 美術/磯田典宏
CAST
  • 菅野美穂
  • 西島秀俊
  • 三橋達也
  • 深田恭子
  • 武重勉
  • 岸本加世子
  • 津田寛治
  • 大家由祐子
  • 大杉漣

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