E.T.

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スピルバーグはあるインタビューのなかで、「大人は子供の脅威の対象だ」というような趣旨のコメントをしている。

それはそれでかなり偏ったオピニオンだとは思うが、少なくとも撮影監督にヤヌス・カミンスキーを迎えて、“黒いスピルバーグ”として覚醒するまでの80年代末まで、彼は“白いスピルバーグ”としてハリウッドに君臨していた。

リアル・ピーター・パンとして、己に巣食うディズニー的妄執を映像化することに全力を傾け、大人 VS 子供(もしくは子供のハートを持った大人)の対立軸を、明確に打ち出していたんである。

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その作例として、『E.T.』は際たるもんだろう。アイ・ポジションは完全に子供目線に固定され、カメラを低い位置に据え置いている。

そのロー・ポジションゆえに、主人公のエリオット少年(ヘンリー・トーマス)にとって近しい大人以外は、基本的に腰より下しか映し出されない(この演出には、出崎統の傑作アニメ『ガンバの冒険』をちょっと思い出させる)。大人たちは、匿名性のなかに埋没する存在でしかないのだ。

エリオットが妹のガーティ(ドリュー・バリモア)に「E.T.は子供にしか見えないんだ」と言うと、「冗談キツーイ」と一蹴されてしまうシーンがあるが、これはあながちウソではないだろう。

E.T.が我が物顔で家をウロついていたのにも関わらず、子供たちの紹介によって初めてその存在を母親が認識するのは象徴的。かくして「大人 VS 子供」の対立は鮮明化され、スピルバーグの信条ははっきりと刻印されることになる。

しかーし、僕はこの映画が好きに非ず。僕は小学生時分にリアルタイムで『E.T.』を観て、子供ながらに「あざとい映画だなー」と思った記憶があるんだが、オッサンとなってしまった今でもやっぱり「あざとい映画だなー」と思ってしまう。

スピルバーグがこの映画に仕掛けた様々な映画的テクニックが、妙に作為的に見えてしまうのは、子供映画の名手として認知されているスピルバーグが、実は子供の視点で物語を紡ぐことの困難さを知り尽くしている作家であり、それゆえに過剰なセンチメンタリズムで装飾しないと映画を補強できなかったからではないか。

「あざとい」という言葉は、裏をかえせば「巧い」という言葉と同義語であり、そして「巧い」ということは「分かりやすい」言葉と同義語だ。

この「分かりやすさ」こそ『E.T.』が大ヒットした最大の要因であり、同時に最大のウィークポイントである。エリオット少年の目の前だけに広がっている私的世界を、誰にでも分かる最大公約数的な物語に還元してしまっているのだ。

もともとスピルバーグ映画において、子供とは未知なるものと接触できる特権的存在だった。なんぴとたりとも侵犯できない無垢さゆえに、例えば『未知との遭遇』では異星人との第三種接近遭遇を果たし、『ジョーズ』ではその無垢ゆえに巨大サメを招き寄せ、母親の観ている前で鮫に食い殺されてしまう。

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大人たちにとって理解不能な存在、それが子供だったんである。だが『E.T.』では、子供を理解可能な存在として描いてしまったが為に、子供しか理解し得ない世界が、どこでも流通可能な共通言語に収斂され、神性が雲散霧消してしまったのだ。

なるほど、確かにこの映画には、一目見たら忘れられないような映画的愉悦に溢れている。E.T.をカゴに乗せた自転車が満月をバックに空を飛んでいる有名なショットは、彼が設立した映画製作会社アンブリン・エンターテインメントのロゴマークにもなっている。

だが僕には、スピルバーグによる映画テクニックの過剰さを象徴したショトに見えて仕方がない。しかも彼はご大層にも、自転車が空を飛ぶシーンを2度もインサートしているんである。

意外なことに、スピルバーグは子供が主人公の映画を『E.T.』と『太陽の帝国』しか手がけていない。おそらくこの2本を製作して、「子供の視点による、子供の私的世界を描くことは不可能」だと気がついたんではないか。彼は子供映画を描くにはあまりにも理知的すぎた。

己がリアル・ピーターパンではないことを悟った彼は、“白いスピルバーグ”との訣別宣言である『フック』を経て、彼は遂に“黒いスピルバーグ”として覚醒するに至るんである。

DATA
  • 原題/E.T. The Extra Terrestrial
  • 製作年/1982年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/115分
STAFF
  • 監督/スティーヴン・スピルバーグ
  • 製作/スティーヴン・スピルバーグ、キャスリーン・ケネディ
  • 脚本/メリッサ・マシスン
  • 撮影/アレン・ダヴィオー
  • 特殊効果/カルロ・ランバルディ
  • 音楽/ジョン・ウィリアムズ
  • 美術/ジェームズ・D・ビッセル、フランク・マーシャル
CAST
  • ディー・ウォーレス
  • ヘンリー・トーマス
  • ロバート・マクノートン
  • ドリュー・バリモア
  • ピーター・コヨーテ
  • K・C・マーテル
  • ショーン・フライ
  • トム・ハウエル
  • エリカ・エレニアック

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