グリーン・デスティニー/アン・リー

グリーン・デスティニー [Blu-ray]

『グリーン・デスティニー』は、中国、香港、台湾の代表的な映画ジャンルである武侠片(武侠映画)をアメリカ資本で製作した、中国人の中国人によるアメリカ映画。

ワイヤーを駆使したカンフー・アクションと、てらいのないピュア・ラブスト-リーが融合すると、世界に通用する第一級エンターテインメントになることを完全証明。

全編中国語の作品であるにもかかわらず、第73回アカデミー賞で作品賞候補にノミネートされたのも納得だろう(最終的には、外国語映画賞など4部門を受賞)。

アメリカ資本が中国の経済力だけではなく、映画芸術にも目をつけたのは必然の流れ。ハリウッド・ムービーが、物語の停滞を恐れるあまりに辿り着いた、ストーリー・テリングの経済性。ジェットコースター的視座のカメラ・ワーク。デジタル技術の万能性は、ある種袋小路に迷い込んでしまっていた。

『マトリックス』が、’90年代を代表するSFアクション映画に成り得たのは、哲学的な意匠をやたらめったら散りばめた割には、クライマックスはネオとMr.スミスがただボカスカ殴り合うだけという、ジョン・フォードから綿々と続く活劇のフォーマットを正統に受け継いでいたからだ。

だとすれば、その活劇としての要素をストロングポイントに置きながらも、西洋人から観ればオリエンタルな色彩をまぶすことができる武侠片は、非常に魅力的なコンテンツだったに違いない。

綿密なマーケティング戦略に基づいて、『グリーン・デスティニー』は製作された。そしてその戦略は大正解だったのである!

本作でアクション監督を務めているのは、その『マトリックス』でハリウッドにその名を轟かせたユエン・ウーピン。

カンフーをアクションのスピード増幅装置としか捉えられなかったウォシャウスキー兄弟とは違い(アクションの速度感を出すためにスローモーションを多用していたのに注意)、自ら太極拳の使い手として知られるアン・リーは、ユエン・ウーピン指導による典雅で洗練された剣術シーンを、まるでバレエのごとく流麗に描き出している。

舞踏のような典雅さをアクションの力点に置いているからこそ、『ドラゴンボール』の武空術のごとく、飛び回るワイヤーアクションもアリなのだ。

「アクションはラブシーンのように美しく、ラブシーンはアクションシーンのように激しい」、これもアン・リーの非ハリウッド的な演出上の戦略だったのではないか。

我らがチャン・ツィイーちゃんが、チャン・チェンと交わす情熱的なラブシーンを見よ!衣服がめくれて絹のような白い肌が露わになるというサービスカットもバッチリである(腹部だけというのがフェティッシュなトコですが)。

可憐な美少女剣士という設定は、日本なら確実に萌え系キャラになるんだろうが、アジアン・ビューティーの凛とした佇まいは、ひ弱なオタク野郎どもを蹴散らしてしまう。でもかわいいニャー。

問題は尺。ムーバイとシューリンとのロマンス、師匠を殺されたムーバイの碧眼弧に対する復讐心、イェンと碧眼弧の師弟関係(その関係性はほとんど銀河皇帝とダース・ベイダーだ)、イェンと盗賊の頭ローとのロマンスと、明らかに要素を詰め込みすぎ。

たぶんこれ、本来ならば3時間ぐらいの尺をとって描かれるべき映画だったと思う。スピーディー&タイトな編集で簡潔にまとめてはいるが、武侠片らしい大河感が損なわれているのは極めて惜しい。

この120分ジャストという上映時間が、非常にハリウッド的に感じてしまう今日この頃です。

DATA
  • 原題/臥虎蔵龍
  • 製作年/2000年
  • 製作国/中国、台湾、香港、アメリカ
  • 上映時間/120分
STAFF
  • 監督/アン・リー
  • 製作総指揮/ジェームズ・シェイマス、デヴィッド・リンド
  • 製作/アン・リー、ビル・コン、シュー・リーコン
  • 脚本/ジェームズ・シェイマス、ツァイ・クォジュン、ワン・ホエリン
  • 音楽/タン・ドゥン、ヨーヨー・マ
  • 撮影/ピーター・パウ
  • 編集/ティム・スキアーズ
  • 衣装/ティン・イップ
CAST
  • チョウ・ユンファ
  • ミシェル・ヨー
  • チャン・ツィイー
  • チャン・チェン
  • ラン・シャン

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