インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国/スティーヴン・スピルバーグ

19年という歳月の残酷さを見せつける、アンチ・エイジング・アドベンチャー

【思いっきりネタをばらしているので、未見の方はご注意ください。】

映画黎明期のD・W・グリフィスがかつてそうであったように、’80年代に思春期を過ごした僕の世代にとって、スティーヴン・スピルバーグとジョージ・ルーカスという存在は、シネマの通俗的な快感原則を教えてくれた”映画の父”なのである。

皆『スター・ウォーズ』の壮麗なスペース・オペラに酔いしれ、『未知との遭遇』(1977年)の衝撃的な第三種接近遭遇に感銘し、『E.T.』(1982年)の宇宙人と少年による心の交流に涙した。

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『E.T.』(スティーヴン・スピルバーグ)

その二人がタッグを組んだ『インディ・ジョーンズ』シリーズは、リアルタイムに劇場で鑑賞したこともあり、冒険活劇のスタンダード・フィルムとして、今でも僕の脳内に鮮明にインプットされている。

気がつけば、前作『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』の頃はニキビ面高校生(童貞)だった僕も、あれから19年という時を経て、名実共にオッサン呼ばわりされてしまう年齢に。

しかし、まさか実現しないだろうと思っていた『インディ・ジョーンズ』の新作が公開されるとあっては、おっとり刀で駆けつけるしかない!

少なくとも僕にとってスピルバーグ&ルーカス作品を観に行くということは、自分が純粋な映画ファンであることを確認せんがための行為である。ちょうど19年前の高校生の頃のような情熱を抱いて。

しかし『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』が叩きつけるのは、僕たちを19年前の興奮にタイムスリップさせることではなく、19年という歳月の残酷さであった。

そもそも『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981年)、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984年)、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989年)の3本のフィルムは、1930年代の“古き良き時代”を舞台に考古学者インディ・ジョーンズ博士の波瀾万丈な冒険が繰り広げられる、パルプ・フィクション・ムービーだった。

ここには、かつてスピルバーグやルーカス自身を熱狂させたB級冒険活劇のエッセンス、すなわち夢やロマンの香りが充満していた。

しかし、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』の時代設定は、キリスィマスィ島で初の水爆実験が行われ、ソ連が人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功した1957年。

米ソによる冷戦構造がいよいよ深刻化し、各地で赤狩りが激化した時代の変わり目でもある(映画でも、インディは赤狩りの標的にされて、大学教授の職を追われることになってしまう)。

冒頭のルーカスの『アメリカン・グラフィティ』(1973年)を彷彿とさせるカーレースが暗示するように、もはやロマンに溢れていたグッド・デイズは過ぎ去り、急速に近現代化されつつある時代情勢にインディはうまく対応しきれない。彼は前時代的なヒーローなのだから。

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『アメリカン・グラフィティ』(ジョージ・ルーカス)

ロマンなき時代にインディを復活させるにあたって、物語がSFチックな方向に向かったのは必然と言えるだろう。そもそも冒頭の舞台が「宇宙人やUFOを極秘に収容しているんではないか」という噂が絶えないエリア51だし、クリスタル・スカルというマクガフィンもSF的なガジェット。

1957年という時代設定で、魔法や呪術に彩られた超自然現象はもはや説得力を持たない。宇宙人との邂逅、UFOとの遭遇というモチーフは、最良の選択というよりも唯一の選択だったのだ。

『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』のヒロインだったマリオンが再登場し、二人のあいだに出来た実子シャイア・ラブーフを交えた親子3人による冒険物語という図式も、頭髪にかなり白いものが混じるようになったハリソン・フォードを主役に据えるにあたって、これまた必然的な流れだったように思う。

御年65歳のハリソンに当然激しいアクションは望むべくもなく、物語はよりヒューマンな方向にシフトチェンジせざるを得ない(その割には、『最後の聖戦』のような親子の葛藤を描ききれていないのだが)。

シャイア・ラブーフを除けば、ハリソン・フォード65歳、カレン・アレン56歳、レイ・ウィンストン51歳、ジョン・ハート68歳という中高年軍団がメイン・キャスト。

年寄りの冷や水的なアンチエイジング・アドベンチャーが画面いっぱいに展開されるとあっては、観客は別の意味でドキドキしてしまう。こんなに走り回ったりして、心拍数あがって心臓に負担かからないのかなーとか。

前3作のダグラス・スローカムに代わって、撮影監督を務めたヤヌス・カミンスキーは、今や音楽のジョン・ウィリアムズと並んですっかりスピルバーグ組の常連だが、前3作と比べて映像のルックが明らかに違うのは興を削ぐ。

今回の撮影にあたり、これまでのシリーズのトーンに合わせようと研究を重ねてきたようだが、彼特有の湿り気のあるダークな色彩感がそれを凌駕してしまい、全体的に絵を重くしてしまっている。パルプ・フィクションっぽい“軽さ”がないのだ。

『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』は、21世紀にインディ・ジョーンズを新たに迎え入れるのではなく、前時代的なヒーローである彼をスピルバーグ&ルーカスの手で改めて葬り去るための映画のように思える。

本作がヒットした暁には、第5弾の製作もありえるとルーカスは語っているらしいが、レクイエムは2度も流す必要はないのではないか?

DATA
  • 原題/Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull
  • 製作年/2008年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/123分
STAFF
  • 監督/スティーヴン・スピルバーグ
  • 製作総指揮/ジョージ・ルーカス、キャスリーン・ケネディ
  • 原案/ジョージ・ルーカス、ジェフ・ネイサンソン
  • 製作/フランク・マーシャル
  • 脚本/デヴィッド・コープ
  • 編集/マイケル・カーン
  • 撮影/ヤヌス・カミンスキー
  • 音楽/ジョン・ウィリアムズ
  • 美術/ガイ・ディアス
CAST
  • ハリソン・フォード
  • ケイト・ブランシェット
  • カレン・アレン
  • レイ・ウィンストン
  • ジョン・ハート
  • ジム・ブロードベント
  • シャイア・ラブーフ
  • イゴール・ジジキン
  • アラン・デイル

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