メゾン・ド・ヒミコ

メゾン・ド・ヒミコ Blu-ray スペシャル・エディション

『メゾン・ド・ヒミコ』は、僕のなかで絶対に観に行かなければならぬマストウォッチムービーだった。

理由は2つ。『ジョゼと虎と魚たち』で新しい恋愛映画の地平を開いた、監督/犬童一心、脚本/渡辺あやのコンビ作であること。

ジョゼと虎と魚たち Blu-ray スペシャル・エディション

僕のミュージックライフに革命的な影響を与えたCDが、細野晴臣が手がけたサウンドトラックアルバム『銀河鉄道の夜』な訳なんだけども、今回の作品でホソノ氏が18年ぶりに映画音楽を手がけていること。

銀河鉄道の夜・特別版

この2つの理由によって、僕の足は磁石のように渋谷・スペイン坂方面に引き寄せられてしまったのである。

犬童一心は残酷なファンタジー作家だ。彼は何ものにも束縛されない自由への飛翔を、リリカルに描き出す。しかしその裏には、冷徹な現実感が貼り付いている。心弾むファンタジーと拮抗するように、容赦のないリアリティーを突きつける。

だから彼の映画には、優しさと痛みが同居している。愛し合う男女のキスも、触れ合いも、そしてセックスも。希望と不安が不可思議なグラデーションを描いて、残酷なファンタジーが生成されるのである。

本編の舞台であるゲイの老人ホーム『メゾン・ド・ヒミコ』は、まさにファンタジックな理想郷だ。カリスマ・ゲイの卑弥呼がその全財産を投じて造り上げたその空間は、まるで難民を受け入れるごとく、人生に疲れ果てたゲイの老人たちを優しく受け入れ、俗世間と乖離されたユートピアを構築している。

しかしそこに、かつて自分と母を捨てたことに対し、実の父親の卑弥呼に憎悪を抱く柴咲コウが登場することによって、事態は急変する。

突然の異者の乱入によって、『メゾン・ド・ヒミコ』は 「甘美な幻想」というファンタジーと、「残酷な現実」というリアリティーの波が交互に打ち寄せる、危うい空間に変貌してしまうのである。

尾崎紀世彦の『また逢う日まで』にのせて、突然オダギリジョーと柴咲コウが楽しそうに踊りだすシーンが挿入されたかと思えば、互いに憎からず想っている二人が実際にセックスしようとすると、ゲイであるオダギリジョーが、身体的に彼女を受け入れられなかったりするシーンが挿入される。観客は常に希望と不安にさらされるのだ。

柴咲コウが父親の卑弥呼に、どんなに至極当然で真っ当な意義を唱えても、彼は「あなたが好きよ」という言葉で返答するのみ。この両者の溝は最後まで埋まることはなく、対立項の図式は崩されぬまま、 少しずつファンタジーのメッキは剥がされていく。

ラストシーンで 柴咲コウが『メゾン・ド・ヒミコ』に戻ってくるシーンを、ファンタジーとリアリティーの融和とみるのは楽観的すぎる意見だろう。なおこの老人ホームは存亡の危機にさらされているし、オダギリと柴咲の恋愛が成就することもない。

僕は犬童一心の残酷なほどに冷徹なまなざしに、ただただ平伏するのみである。そしてこの不思議に優しい痛みを、再び甘受したいと願ってしまうのだ。

DATA
  • 製作年/2005年
  • 製作国/日本
  • 上映時間/131分
STAFF
  • 監督/犬童一心
  • 脚本/渡辺あや
  • プロデューサー/久保田修、小川真司
  • 音楽/細野晴臣
  • 撮影/蔦井孝洋
  • 美術/磯田典宏
  • 照明/疋田ヨシタケ
  • 衣装/北村道子
  • 編集/阿部亙英
  • 録音/志満順一
  • 衣装/北村道子
CAST
  • オダギリジョー
  • 柴崎コウ
  • 田中泯
  • 西島秀俊
  • 歌澤寅右衛門
  • 青山吉良
  • 村上大樹
  • 新宿洋ちゃん
  • 森山潤久
  • 井上博一
  • 柳澤愼一
  • 大河内浩
  • 高橋昌也

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