ロスト・イン・トランスレーション/ソフィア・コッポラ

ロスト・イン・トランスレーション [DVD]

映画界の美しきサラブレッドによる、アバンチュールと自分探し

フランシス・フォード・コッポラが、実娘ソフィアとアカデミー賞のプレゼンターとして登場した際、『ゴッドファーザー』(1972年)のマーロン・ブランドーの口調を真似て「遂に家業を継いでくれる気になったんだね、ソフィア」とジョークをかましていたが、よく考えたら彼女は最初からフィルムメーカーを目指していたんじゃないんだよね。

『ゴッドファーザー』の三男坊マイケルは、カタギからマフィアのボスになった訳だが、ソフィアも女優として『ゴッドファーザーPARTⅢ』(1990年)の演技が酷評された後は、流転のクリエイティヴ・ライフを送っていた。

『ゴッドファーザーPARTⅢ』(フランシス・フォード・コッポラ)

MILK FEDというブランドを立ち上げみたり、フォトグラファーをやってみたり、なぜか『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999年)に端役出演(アミダラ女王の召使の一人)してみたり。それはそれでうらやましいんだけど。

やっぱ、血って才能なんだと思う。傍から見ればソフィア・コッポラって、「父親のお金と人脈をフル活用して、ありとあらゆるクリエイティヴなお仕事してみた挙句、映画監督に挑戦してワールドワイドに認知された女の子」である。

だって彼女の血縁関係だけでも、「映画界のコルレオーネ・ファミリー」とでも形容すべき陣容を誇っているのだ。

(祖父)カーマイン・コッポラ 作曲家
(父)フランシス・フォード・コッポラ 映画監督
(兄)ロマン・コッポラ 映画監督
(従兄弟)ジェイソン・シュワルツマン 俳優
(従兄弟)ニコラス・ケイジ 俳優
(叔母)タリア・シャイア 女優
(元夫)スパイク・ジョーンズ PVディレクター、映画監督

この強力なコネクションを武器に、“ハリウッド最強の美しきサラブレッド”ソフィアは、形骸化した映画界にジェネレーションXならではの感性を叩きつける。

今やガーリー・ムービーの新古典となりつつある『ヴァージン・スーサイズ』(1999年)に続いて、監督第二作目として製作された『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)は、世界で最もクリエイティヴを発信するのに恵まれた環境にある女の子によるプライベート・フィルムだ。

なぜプライベート・フィルムって断言できるかっていうと、スカーレット・ヨハンソン演じる写真家の若妻が、ソフィア・コッポラ自身であることが明白だからだ(ってことは、ダンナ役がスパイク・ジョーンズであることも明白だ)。

彼女はビル・マーレーに「作家を目指しても文章は最悪だし、写真を撮ってもロクなものができない」と心情を吐露し、「どうしたらいいのかわからないの」と告白する。

これは若き日のソフィアに思いっきりリンクしている訳で、「わかるさ。自分がどういう人間か、何をしたいかを知れば、君を悩ませるような事は少なくなるよ」というビル・マーレーの返答は、内的葛藤を抱えていた実際の彼女を救った言葉であるはずなのだ。

だからこの映画は、“異国で出会った男女の、アバンチュールを描いた物語”ではない。大都会TOKYOで孤独や疎外感を増幅させてしまった男女による、自分探しの物語である。…まあ「自分探し」なんてものは、金と時間に余裕のある人間に限られたブルジョワ的発想だと僕は勝手に思っているんだが。

いやひょっとしたら、自意識の問題すらもフラットなコメディーとして描けてしまうことが、ジェネレーションXならではの感性なのかも。「映像」も「音楽」も「ファッション」も、映画を形成するすべてのファクターが、彼女にとって等価なものになっているように。

淡々と綴られた自分探しの旅。10代~20代の逡巡を経て、「自分がどういう人間か、何をしたいか」を咀嚼したソフィア・コッポラが描く、これは「私映画」である。だからお友達のHIROMIXが、カメラに向かって手を振るような、プライベート・フィルム丸だしのエンディングも全然アリなのだ。

HIROMIX girls blue
『HIROMIX girls blue』(Hiromix)

そんな「私映画」がアカデミー脚本賞に選ばれちゃうのって、凄くないですか。一般ピーポーの僕らは、ただただ彼女の華麗なるクリエイティヴ・ライフに、羨望の眼差しを向けるのみ。

DATA
  • 原題/Lost in Translation
  • 製作年/2003年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/102分
STAFF
  • 監督/ソフィア・コッポラ
  • 脚本/ソフィア・コッポラ
  • 製作/ソフィア・コッポラ
  • 製作総指揮/フランシス・フォード・コッポラ、フレッド・ルース
  • 製作/ロス・カッツ
  • 撮影/ランス・アコード
  • 美術/K・K・バーレット、アン・ロス
  • 衣装/ナンシー・スタイナー
  • 音楽/ブライアン・レイツェル、ケビン・シールズ
CAST
  • ビル・マーレイ
  • スカーレット・ヨハンソン
  • ジョヴァンニ・リビージ
  • アンナ・ファリス
  • 林文浩
  • マシュー南
  • 田所豊
  • 竹下明子
  • HIROMIX
  • 藤原ヒロシ
  • 桃生亜希子

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