シャッター アイランド/マーティン・スコセッシ

【思いっきりネタをばらしているので、未見の方はご注意ください。】

『ミスティック・リバー』の原作者として著名なデニス・ルヘインによるスリラー小説を、4度目のタッグとなるマーティン・スコセッシ × レオナルド・ディカプリオのコンビで、映画化。

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『シャッター・アイランド』(デニス・ルヘイン)

舞台は、ボストンの遥か沖合に浮かぶ孤島シャッターアイランドに建立された、犯罪者のみを収容する精神病院。

厳重な監視体制が敷かれていたにも関わらず、レイチェルという女性患者が忽然と姿を消してしまう。連邦保安官のテディ(レオナルド・ディカプリオ)と相棒チャック(マーク・ラファロ)が捜査のため孤島に足を踏み入れ、やがて驚愕の事実に突き当たる…。

絶壁の孤島、精神病院、密室、謎の暗号。ミステリーとしての筋立ては、鉄板と言っていいほどにクラシカルなモチーフで埋め尽くされている。しかも全編を彩るスコアは、クシシュトフ・ペンデレツキ、ジョン・ケージ、ナム・ジュン・パイク、イングラム・マーシャルといった現代音楽のオンパレード。

さらには、ブライアン・イーノによるアンビエント・ミュージックあり、ダイナ・ワシントンによるブルースありと、バリエーションも豊か。音楽監修を担当したザ・バンドのロビー・ロバートソンによる選曲が光る。

しかし、どーにもこーにも演出が生ぬるーい!全方位型の万能職人作家として認知されているマーティン・スコセッシだが、彼は資質的にサスペンス映画には向いていないんではないか。

『恐怖の岬』をリメイクした『ケープ・フィアー』でも感じたことだが、追う者と追われる者の距離の伸縮や、映像に突然“異物”が入り込んで来るショック描写といった、サスペンスを増幅させるためのテクニックに欠けている気がしてならない。

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『ケープ・フィアー』(マーティン・スコセッシ)

ディカプリオに突然囚人が襲いかかるシーンなんぞ、音響効果も含めて、もっとショッキングに撮られるべきものだと思うんだが。

タネを明かしてしまえばコレ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患ったディカプリオが、トチ狂って子供たちを溺死させた妻を殺害し、その罪の意識から逃れる為に自分勝手な妄想を創り上げようとする話。

折り畳むように積み上げられた死体の山、焼け崩れる妻ドロレス、溺死する少女。繰り返しフラッシュバックされ、リフレインされるイメージは、脳内で消去しきれなかった悪夢の残像なんである。

犯した罪に耐えきれず、あえてロボトミー手術を受けんと、“わざと”病気が克服していない演技をする、主人公の選択。

つまり明らかにこれは、サスペンス映画と見せかけて、スコセッシにとっての最重要テーマである「贖罪」をモチーフにしたドラマなのだ。

だが彼は、暗く澱んだ倫理の問題を現前化させることはできても、フックとなるサスペンスを増幅させることができず。

『シャッター アイランド』は、スコセッシの映画作家的資質が、いい意味でも悪い意味でも明瞭に露呈された映画なんである。

DATA
  • 原題/Shutter Island
  • 製作年/2010年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/138分
STAFF
  • 監督/マーティン・スコセッシ
  • 製作/ブラッドリー・J・フィッシャー、マイク・メダヴォイ、アーノルド・W・メッサー、マーティン・スコセッシ
  • 製作総指揮/クリス・ブリガム、レータ・カログリディス、デニス・ルヘイン、ジャンニ・ヌナリ、ルイス・フィリップス
  • 原作/デニス・ルヘイン
  • 脚本/レータ・カログリディス
  • 撮影/ロバート・リチャードソン
  • プロダクションデザイン/ダンテ・フェレッティ
  • 衣装/サンディ・パウエル
  • 編集/セルマ・スクーンメイカー
  • 音楽/ロビー・ロバートソン
CAST
  • レオナルド・ディカプリオ
  • マーク・ラファロ
  • ベン・キングズレー
  • ミシェル・ウィリアムズ
  • エミリー・モーティマー
  • マックス・フォン・シドー
  • パトリシア・クラークソン
  • ジャッキー・アール・ヘイリー
  • イライアス・コティーズ
  • テッド・レヴィン
  • ウィル・エステス

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