知りすぎていた男/アルフレッド・ヒッチコック

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僕は筋金入りのヒッチコキアンを自称しているんだが、その華麗なるフィルモグラフィーのなかで代表作と呼ばれている作品のいくつかはどうしても好きになれず、「自分は本当にヒッチコキアンなのか」と自問自答することも少なくない。

名作との誉れ高い『知りすぎていた男』も、白状すると個人的にはあまり好きになり切れない一編である。

本作は、モロッコで一人息子を誘拐されてしまったジェームズ・スチュワート&ドリス・デイ演じる夫婦が、「アンブローズ・チャペル」というメッセージを頼りに捜索を開始、やがて某国首相の暗殺という巨大な陰謀に巻き込まれていくという、英国時代にヒッチコックが作った『暗殺者の家』のリメイク作品。

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彼が同じ題材を二度映画化しているのはコレだけだから、よほど好みのストーリーだったんだろう。

ヒッチコック映画といえば、ジョーン・フォーンティーン、イングリッド・バーグマン、グレース・ケリー、キム・ノヴァク、ティッピ・ヘドレンといったクール・ビューティーがまず目に浮かぶ。愛嬌のある顔立ちと庶民的雰囲気を持つドリス・デイは、明らかに異なる系譜だが、おおらかなトーンに包まれた『知りすぎていた男』のヒロイン役にはハマリ役。

クール・ビューティーたちが体現し得ない母性とたおやかさを存分に発揮している(彼女の歌う『ケ・セラ・セラ』もステキでしたね)。

しかし『知りすぎていた男』の最大のウィーク・ポイントは、危機的状況を回避する方法があまりに陳腐すぎること。例えば、暗殺者が首相の生命を狙う有名なアルバート・ホールのシーン。

ドリス・デイ、暗殺者、オーケストラという三者をカットバックで巧みに切りかえすことによって、サスペンスを醸成させるあたりはさすがヒッチコックと唸らせる編集術なのだが、発砲する寸前にドリス・デイが「キャー!」と絶叫して、暗殺者の的を外させるのが危機回避手段というのは、いくらなんでもお粗末すぎやしないか。

まあ、有名歌手という設定のドリス・デイの発声がやたらいいために、その叫び声もアルバート・ホール全体に響き渡るほどだった、という伏線はおそらくあるのだろうけど。

ドリス・デイ AO-004

悪漢がジェームズ・スチュワートの愛息にピストルを向けてゆっくりと階段を降りるシーンでも、結局どうやってこの状況を回避するのかといえば、ジェームズ・スチュワートがスキをみて悪漢を階段から突き落とすという、もうびっくりするぐらいに伏線のないやり方。

ひょっとしたらヒッチコックはアクションの繋ぎ方、サスペンスの醸成にご執心で、危機的状況を回避するプロットの建て方には興味がないのかもしれない。

まあそんな演出もケ・セラセラ。

DATA
  • 原題/The Man Who Knew Too Much
  • 製作年/1956年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/120分
STAFF
  • 監督/アルフレッド・ヒッチコック
  • 原作/チャールズ・ベネット、P・B・ウィンダム・ルイス
  • 脚本/ジョン・マイケル・ヘイズ、アンガス・マクフェイル
  • 撮影/ロバート・バークス
  • 音楽/バーナード・ハーマン
  • 編集/ジョージ・トマシーニ
CAST
  • ジェームズ・スチュワート
  • ドリス・デイ
  • ブレンダ・デ・バンジー
  • バーナード・マイルス
  • ラルフ・トルーマン
  • アラン・モウブレイ
  • ヒラリー・ブルック

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