ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の七日間/デヴィッド・リンチ

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『ツイン・ピークス』に登場する様々なアイコン…例えば小人とか、巨人とか、ブラックロッジとか、丸太おばさんとか…を、意味深な象徴と邪推してしまうのは、いかがなものか。

それは読み解かれるために現出したのではなく、ナチュラル・ドラッグジャンキーことデヴィッド・リンチの前頭葉に突然現れた、不確定要素に過ぎない。ラカンのような深層心理学的アプローチではなく、そのイメージを素直に享受し、咀嚼して心ゆくまで味わう。これがリンチ映画の正しい鑑賞法である。

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極論してしまえば、僕なんぞは小人が赤い部屋で奇妙なダンスを踊ってさえすれば、オールオッケー。ただれたヴァギナ色の赤いカーテン、そこに整然とした左右対称顔のカイル・マクラクランがたたずむ、その鮮烈なビジュアルにまずは酔いしれるべし。

リンチ自身が語っているとおり、これは「謎に関する出来事」であり、典型的なアメリカの片田舎に巻き起こるスーパーナチュラルな物語なのだ。

人口5万人とは到底思えないほどに過疎化状態の町で繰り広げられる、現代の神話。換言すれば、ツイン・ピークスはデヴィッド・リンチにとってのディズニーランド。

しかし、ローラ・パーマーが殺されるまでの7日間の出来事を描いた『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の七日間』(1992年)の最大の失敗は、ヘンに“理に落ちる”映画にしてしまったことだ。ウィアードでストレンジなリンチ的感性が露出する瞬間が、小さじ一杯程度。脳内麻薬の分泌が足り~ん!!

たぶんこの映画は、テレサ・バンクスの死体を検分するため、キーファー・サザーランド&クリス・アイザックがワシントン州へ捜査に向かうシークエンスで燃え尽きてしまっているんではないか(FBIの秘書なる女性が珍妙なダンスを踊るシーンは、リンチ的なセンスが充満していてサイコーだったんだが)。

映画版もTV版と同様、リンチ好みなキャスティング。なかんずく、グラム・ロックの貴公子デヴィッド・ボウイの名前がクレジットされたのは、もはや必然というべきである。

妙に現実感がないカイル・マクラクランの端正なマスクは、光の世界とダークサイドの世界を結ぶ交通手形。負けず劣らずグッド・ルッキンなデヴィッド・ボウイが芳香するのは、より崩れたエロス。ひょっとしたら、それが彼がブラックロッジ(ダークサイド)へ手招きされてしまった一因かも。

この映画に関しては色々文句もない訳ではないんだが、僕もかつてはどこぞのミーハーと同じく関連書籍を買い漁り、映画公開当日には一人寂しく長蛇の列に交じった経験があるので、あまり悪口は言いたくない。

世界中に伝播した『ツイン・ピークス』というナイトメア祭りを、デヴィッド・リンチ自らの手で終止符を打った作品として認識すべきである。とりあえずこの映画の原題にもある有名なセリフをもちまして、最後の挨拶に代えさせて頂きます。

Through the darkness of the future past, The magician longs to see. One chants between two worlds. Fire walk with me.
(魔術師の見んと欲せし来るべき過去の闇を抜け、声が二世界のはざまより唱えしは、火よ我と共に歩め)

《補足》
今回の映画版で確信したが、やっぱりシェリー役のミッチェン・アミックは可愛いさは、美女揃いのツイン・ピークス町の中でも一際際立っている。ちなみに彼女のみごとな肢体は、『水曜日に抱かれる女』(1993年)で確認できるので要チェックなり。

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DATA
  • 原題/Twin Peaks: Fire Walk With Me
  • 製作年/1992年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/135分
STAFF
  • 監督/デヴィッド・リンチ
  • 脚本/デヴィッド・リンチ
  • 製作/グレッグ・フィーンバーグ
  • 製作総指揮/デヴィッド・リンチ、マーク・フロスト
  • 脚本/ロバート・エンゲルス
  • 撮影/ロン・ガルシア
  • 音楽/アンジェロ・バダラメンティ
  • 美術/パトリシア・ノリス
CAST
  • カイル・マクラクラン
  • デヴィッド・ボウイ
  • キーファー・サザーランド
  • クリス・アイザック
  • ハリー・ディーン・スタントン
  • シェリル・リー
  • レイ・ワイズ
  • モイラ・ケリー

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