評決/シドニー・ルメット

評決 [Blu-ray]

ポール・ニューマンが再びハリウッド・スターの座を取り戻した、一級の法廷サスペンス

’60年代~’70年代半ばまで、ポール・ニューマンは紛れもなくマネー・メイキング・スターとしてハリウッドに君臨していた。

『ハスラー』(1961年)では若きビリヤード・プレイヤーを、『明日に向って撃て!』(1969年)では列車強盗ブッチ・キャシディを、『スティング』(1973年)では伝説的な賭博師を、精悍な容姿とアクターズ・スタジオ仕込みのメソッド演技で体現。

初めて監督に挑戦した『レーチェル レーチェル』(1968年)は好評をもって迎えられ、ニューヨーク映画批評家協会賞を受賞。趣味のカーレースも、ル・マン24時間レースで2位に入るなど、公私ともに絶好調!であった。

しかし’70年代後半に入ると、順風満帆なアクターズ・ライフに少しずつ軋みが。偉大な父親の後を追って俳優になった息子のスコットが、オーバードーズで急死(二人は『タワーリング・インフェルノ』(1974年)で父子共演をしている) 。

『タワーリング・インフェルノ』(ジョン・ギラーミン)

このあたりから精彩を欠くようになり、主演したパニック映画『世界崩壊の序曲』(1980年)が「史上最低のパニック映画」と酷評され、刑事アクション『アパッチ砦ブロンクス』(1981年)も興行的に大コケ。彼は完全にスランプに陥ってしまったのだ。

失意に沈んでいた彼のもとにお鉢がまわってきた企画が、バリー・リードのベストセラー小説『評決』の映画化。アル中の初老弁護士が、医療過誤訴訟をきっかけにして、教会と法曹界を相手に単身立ち向かう法廷サスペンスである。もともとこの役にはロバート・レッドフォードが予定されていたが、「俺はこんなアル中役なんてイヤだもんね!」と駄々をこねて降板。

かつての盟友レッドフォードが蹴った役を引き受けるというのは、ニューマンのプライドを考えるに難しい決断だったろうが、逆に「落ちぶれ弁護士役を演じるのは、今こそ一世一代の演技ができるチャンス」と捉えたのかもしれない。

彼は意気込んで出演を決意する。実際、この映画でのポール・ニューマンは素晴らしい。頭髪には白いものが混じり、端正なマスクには皺が目立ち始めた中年ダメ男の悲哀が、たっぷりと滲み出ている。

社会派サスペンスの巨匠シドニー・ルメット監督作品にしては、物的証拠が弱すぎるとか、法廷での論戦がヌルすぎるとか、純粋な推理映画としての瑕疵をいくらでも列挙することができるだろう。

しかしルメットが何よりも腐心したことは、冬枯れのボストンを舞台にダメ男の再生の物語を描くことだった。『評決』はサスペンス映画ではなく、中年親父リ・ボーン映画なのである。

ルメットの乾いた演出は、効果音の使い方に顕著。例えば、酒をガブ飲みしつつピンボールに興じるポール・ニューマンを、逆光気味に捉えたファースト・シーン。ここではスコアは一切流されず、ピンボールのけたたましい音だけが辺りを埋め尽くしている。

シャーロット・ランプリングからの電話を、ニューマンが悲痛な表情で受け流すラスト・シーン。ここでも音楽は一切かからず、ただ電話音だけが鳴り響いている。メロウな感傷性を一切排除した、中年男の孤独を浮き上がらせるような演出。うーむ、マーベラス。

ポール・ニューマンは、この映画をきっかけに新境地を開拓。1986年には『ハスラー2』でアカデミー主演男優賞を受賞した。映画の主題と同じく、彼もまたハリウッド・スターの座を再びその手に取り戻したんである。

『ハスラー2』(マーティン・スコセッシ)
DATA
  • 原題/The Verdict
  • 製作年/1982年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/129分
STAFF
  • 監督/シドニー・ルメット
  • 製作/リチャード・D・ザナック、デヴィッド・ブラウン
  • 製作総指揮/バート・ハリス
  • 原作/バリー・リード
  • 脚本/デヴィッド・マメット
  • 撮影/アンジェイ・バートコウィアク
  • 音楽/ジョニー・マンデル
CAST
  • ポール・ニューマン
  • シャーロット・ランプリング
  • ジェームズ・メイソン
  • ジャック・ウォーデン
  • ミロ・オーシャ
  • エド・ビンズ
  • リンゼイ・クローズ
  • ロクサーヌ・ハート
  • ジュリー・ボヴァッソ

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