S-F-X/細野晴臣

S-F-X

細野晴臣がビート&リズムを突き詰めた、超ラディカル・アルバム

テイチクといえば演歌のイメージが強いが、当時の社長だった南口重治が「夢枕に細野が現れた」というものすごい理由で、YMOを散開したばかりの細野晴臣を招聘して立ち上げたレーベルが、ノンスタンダードとモナドである。

ノンスタンダードのコンセプトは「多くの人々に支持されながらも、作り手側の感覚が標準化されていない音楽」、モナドのコンセプトは「一切の制約を受けずに非標準的な音楽作りを目指す音楽」。

似て非なるコンセプトを掲げた両レーベルから細野はアルバムを製作し、マーケットで簡単には消費されにくい音楽を世に送り出してきた(その結果、両レーベルとも実質2年半程の期間で終わってしまったのだが)。

ノンスタンダードという名前は、ノンスタンダード・アナリシス(非標準解析)という数学の先端的なジャンル、モナドという名前は、ドイツの哲学者ライプニッツが案出した、「これ以上分割できない究極の個体」という意味。

どちらも何やらよく分からないコトバだが、当時親交を深めていた中沢新一からヒントをもらったネーミングであるらしい。

横尾忠則とインド旅行したり、中沢新一と『観光』(1985年)という書籍を出版したりして、インストールされていった“ニュー・エイジ・サイエンス的教養”をアンビエントという形式で表出したのが、『Coincidental Music』(1985年)、『The Endless Talking』(1985年)、『Mercuric Dance (マーキュリック・ダンス~躍動の踊り)』(1985年)、『Paradise View』(1985年)といった、一連のモナド・レーベルのアルバム。

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『コインシデンテル・ミュージック』(細野晴臣)

それに対し、ノンスタンダード・レーベルからリリースされた『S-F-X』(1984年)は、ビート&リズムを主軸に置いたアルバムといえるだろう。

ロックの基本である8ビート、ファンク、ディスコ、フュージョンで使われる16ビート。しかし『S-F-X』では微分化の極致ともいえる32ビート(これ以上ビートが細分化されると人間には感知できず、音が繋がって聴こえてしまう)を導入している。

当時としてはかなり過激な試みであったらしく、アフリカ・バンバータに聴かせたところ、「クレイジー!」という一言が返ってきたという逸話もあるほど。特に『Body Snatchers』は、超ラディカルなヒップホップ・ナンバーとして現在でも十分有効だ。

また本作は、タイトル通りSF映画のオマージュに満ちたアルバムでもある。M-2『Body Snatchers』は、ドン・シーゲル監督による1957年のアメリカ映画『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』から、M-5『Strange Love』は、スタンリー・キューブリック監督による1964年のイギリス映画『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』からタイトルを拝借している。

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『SF/ボディ・スナッチャー』(ドン・シーゲル)

またM-4『S-F-X』は、急逝したフランソワ・トリュフォー監督に捧げたトラック。これは、細野が彼の手がけたSF映画『華氏451』(1966年)のファンであり、トリュフォーが最後に出演した映画が『未知との遭遇』(1977年)ということもあって、SFへのオマージュとして捧げられた。

ゴダールではなくてトリュフォーというあたりが、坂本・高橋との資質の違いが如実に表れていて興味深いと思う次第。

DATA
  • アーティスト/細野晴臣
  • 発売年/1984年
  • レーベル/ノン・スタンダード
PLAY LIST
  1. Non-Standard Mixture
  2. Body Snatchers
  3. Androgena
  4. S-F-X
  5. Strange Love
  6. Alternative
  7. Dark Side Of The Star
  8. Medium Composition ; #1
  9. Medium Composition ; #2
  10. 3.6.9

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