破格の10億円をかけて作られた、超弩級のサイバーパンク・アニメ
思い返すと、僕が初めてマンガ版『AKIRA』(1982年〜1990年)を手にしたのは、まだいたいけな小学生の時だった。
緻密な描画、サイバーパンクな世界観、先の読めないストーリー展開。暴力があり、恋愛があり、セックスがあった。「少年ジャンプ」に代表される紋切型の漫画に慣れ親しんでいた僕には、すべてが未知の体験。決して子供向けではないこの作品に、すっかり虜になってしまったんである。
改めて強調する必要もないが、『AKIRA』は日本のマンガの歴史の中でも、極めて重要な位置を占める作品。ニューウェーヴの先駆的作品として海外に広く紹介され、漫画がMANGAとしてワールドワイドに浸透する礎となった。
これを機に、ジャパニーズ・サブカルチャーが欧米で大きな喝采をもって受けいられ、後にジャパニメーションとまで呼ばれる作品群が海外へ流出。
和製メビウス(フランスが生んだ天才的コミック・アーティストで、大友克洋がもっとも影響を受けたアーティスト。後に映画製作にも積極的に関わり、『フィフス・エレメント』などのSF映画にクレジットされている)として、大友克洋は大きな役割を果たしたのである。
大友克洋の圧倒的な描画力には、ただただ感嘆するばかり。ここまで「絵」で見せることにこだわった漫画家はそうはいない。
都会の闇を疾走するバイク、なぎ倒されて行く超高層ビル郡、高度なテクニックに裏付けされた、リアルな世界があった。構図ひとつとっても、手塚治虫が築き上げた古典的手法に対し、大友はより映画的手法で物語を活写している。
『童夢』(1983年)で確立したスタイル、モチーフは長い潜伏期間を経て、一気に爆発した。そして、その余韻は自ら監督を務める「映画」というフォーマットで顕在化することになる。映画的手法で漫画を描き続けた大友克洋が、 最終段階として映画監督を買ってでたのは当然の帰結だろう。
彼は誰よりも「絵」の動くダイナミズム、「アニメ」の持つ快楽性を知っている。監督・大友克洋の欲求は映画という媒体を通したストーリーテーリングではなく、金田や鉄雄を1/24フレームごとに動かしたいという、単純な願望のように思えてならない。
だが映画版『AKIRA』ではマンガほどの壮大なストーリーに遥かに及ばず、未完成な部分を露呈している。どうも舌足らずというか説明不足というか、あの膨大な原作をそのまま映画化するのは確かに難題であったろうが、ストーリーテーリングとしての根本的な問題があるような気がしてならない。
『AKIRA』はジャパニメーションの方向性を明確に打ち出した作品だ。研ぎすまされたドライヴ感覚は、芸能山城組が奏でる不思議なサウンドと共に疾走する。
- 製作年/1988年
- 製作国/日本
- 上映時間/124分
- 監督/大友克洋
- 脚本/大友克洋
- 原作/大友克洋
- 脚本/橋本以蔵
- 作画監督/なかむらたかし
- 作画監督補/ 森本晃司
- 美術/水谷利春
- 音響/明田川進
- 音楽/芸能山城組
- 録音/瀬川徹夫
- 効果/倉橋静男
- 岩田光央
- 佐々木望
- 小山茉美
- 石田太郎
- 玄田哲章
- 鈴木瑞穂
- 大竹宏
- 北村弘一
- 池水通洋
- 渕崎由里子
- 大倉正章
最近のコメント