『エイリアン2』(1986年/ジェームズ・キャメロン)
テーマと意味をネタバレ考察・あらすじ・批評・レビュー
『エイリアン2』(原題:Aliens/1986年)は、ジェームズ・キャメロン監督が前作『エイリアン』(1979年)の静謐な恐怖を継承しつつ、それを怒涛のアクションと軍事SFの熱量へと変換し、映画史に残る最高傑作の続編として完成させたエンターテインメントの到達点である。57年という長い冬眠を経て目覚めたリプリーが、悪夢の地である惑星LV-426へと再び足を踏み入れる構図は、単なる救出劇を超え、彼女のトラウマを克服するための壮絶な再生の物語として描かれる。植民地海兵隊の無骨な装備と重厚な兵器、そしてエイリアン・クイーンの圧倒的な質量がぶつかり合う戦闘シーンは、観る者に息つく暇も与えない。
- 第59回アカデミー賞:視覚効果賞、音響効果編集賞
- 第40回英国アカデミー賞:特殊視覚効果賞
- 第60回キネマ旬報ベスト・テン(外国映画):第1位、読者選出外国映画第1位、読者選出外国映画監督賞
リドリー・スコットからジェームズ・キャメロンへ
すべては、『エイリアン2』(1986年)の原題である『ALIENS』というタイトルに集約されている。これは単にエイリアンが複数登場することを示すだけでなく、「異物=他者」との圧倒的な物量戦への突入を宣言するものだ。
湧き出す異形の軍勢、飛び交う弾丸、乱射されるパルス・ライフル、そして画面を覆い尽くす爆炎。前作のゴシックホラー的な密室劇から一転、本作は空前のスケールで展開するSFアクション映画として生まれ変わった。
リドリー・スコットが監督を務めた第1作『エイリアン』(1979年)は、商業的にも批評的にも大成功を収めた。当然のごとく20世紀フォックスは続編を企画するが、スタジオ上層部の体制変更なども重なり、プロジェクトは長らく宙に浮いた状態となる。
娯楽性を強化したいスタジオ側と、前作のような心理的恐怖を追求したいスコット側とで方向性が異なったこともあり、新たな才能が探されることとなる。
監督候補にはジェームズ・フォーリーやピーター・イェーツなどの名も挙がっていたが、デイヴィッド・ガイラー、ウォルター・ヒル、ゴードン・キャロルらプロデューサー陣は、当時若手だったジェームズ・キャメロンの『ターミネーター』(1984年)の脚本と、並行して手掛けていた『ランボー/怒りの脱出』(1985年)の草稿を読み、その並外れた筆力と構成力に惚れ込む。
「母性」をテーマとするプロットは彼らを大いに唸らせ、結果としてキャメロン自らが監督という大役を任されることに。キャメロンはホラー映画から戦争映画という全く異なるジャンルへの転換を図り、前作との直接的な比較を回避しつつ、独自の金字塔を打ち立てるという極めてクレバーな戦略を立てたのである。
戦争映画としてのエイリアン
キャメロンの起用により、物語は密室でのサスペンスから宇宙を舞台にしたベトナム戦争へと大きくシフトチェンジする。エレン・リプリーを戦うヒロインとして物語の中心に据え、強大なクイーン・エイリアンを創造することで、戦争映画としての構造を強固なものにしたのだ。
装甲兵員輸送車のデザイン、植民地海兵隊の無骨な装備、そして兵士たちのスラング交じりの会話も、すべて現実の戦争映画の文法に基づいている。
特に海兵隊員たちの描写には、圧倒的な軍事力を誇りながらも、未知のジャングルで神出鬼没のゲリラ的脅威に翻弄され、疲弊していくアメリカ軍の姿が意図的に重ね合わされている。
また、前作でH・R・ギーガーやメビウスが築き上げた、有機的でおどろおどろしい生体デザインのトーンを引き継ぎつつも、新たに工業デザイナーのシド・ミードやロン・コブらの才能を招き入れる。
ミードがデザインした宇宙船スラコ号の鋭角的なフォルムや、実在の銃器を組み合わせて作られたM41Aパルス・ライフルなど、軍事的・機械的な質感を徹底的に強調。キャメロンは、偉大なる前作の世界観を完全に自分の色(=ミリタリーSF)へと染め上げたのである。
撮影が行われたイギリスのパインウッド・スタジオの舞台裏もまた、まさに戦場だった。現地のベテランスタッフたちは無名のアメリカ人監督キャメロンを軽視し、衝突が絶えなかったという。
昼休みに2時間もかけて紅茶を飲む英国クルーの習慣にワーカホリックなキャメロンが激怒し、さらには画作りの意見の相違から撮影監督を途中でエイドリアン・ビドルにすげ替えるなど、現場は常に緊迫していた。
それでも、彼の徹底した事前準備と妥協なきビジョン、そして盟友である特殊メイクの巨匠スタン・ウィンストンらの尽力によりチームは徐々にまとまり、結果として前作に勝るとも劣らない傑作が完成したのである。
母性vs.母性のマザー・ウォーズ
本作には、「パート2を作らせたら世界一」のキャメロンらしい、戦略的な采配が隅から隅まで息づいている。『ターミネーター』で証明した圧倒的なスピード感と軍事的ガジェットへの偏愛を、2時間20分強という長尺の中に濃密に詰め込み、観客を一瞬たりとも退屈させない。
惑星LV-426へと向かうまでのイントロダクションは静かに緊張感を高め、中盤以降は動体探知機の電子音が煽る息もつかせぬ銃撃戦のつるべ打ち。
そして終盤では、無敵のシガニー・ウィーバーが文字通りの女ランボーと化し、重火器をガムテープで連結して単身で敵の巣窟へ乗り込んでいく。まさに16ビートの疾走感で突き進む超絶アクションだ。
しかし、キャメロンの仕掛けは単なる娯楽のための過剰演出には留まらない。前作が男根的暴力と対峙する女性像(ウーマンリブ的寓話)だったとするならば、本作は明らかに母性の物語へとその構造を根本から組み替えている。
ウィーバー自身、単なるアクション映画になることを危惧して当初は続編への出演を渋っていたが、この「母性」という深いテーマ性に惹かれて復帰を決断したという。
57年間ものコールドスリープによって、地球に残してきた実の娘アマンダを老衰で失うという悲劇に見舞われたリプリーは、深い喪失感とPTSDに苦しめられている(この背景は後に発表された完全版でより克明に描写される)。
そんな彼女が、エイリアンの惨劇から唯一生き残った少女ニュート(キャリー・ヘン)に、失われた娘の面影と新たな母性の対象を見出すのは必然だった。彼女を守り抜くためならば、リプリーは軍隊であれ、巨大企業であれ、そして無数の異星生物であれ、すべてを敵に回して戦う。
ラストでニュートから「お母さん!」と呼ばれる瞬間は、リプリーの母性の回復と自己救済の完成を象徴している。そしてクライマックスにおける、卵を守るクイーン・エイリアンと、疑似的な娘を守るリプリーとのパワーローダー越しの凄絶な一騎打ちは、種族を超えた「母性vs.母性のマザー・ウォーズ」に他ならないのだ。
企業=軍事システムによる父権的秩序の衝突
さらに本作には、もうひとつの極めて重要な対立軸が存在する。それは母性的倫理と、ウェイランド・ユタニ社に代表される企業=軍事システムによる父権的秩序の衝突である。
ポール・ライザー演じる会社側のカーター・バークは、表向きは愛想の良いヤッピーを装いながら、その本性は極めて冷酷。彼は種の保存や倫理を利益計算へとすり替え、エイリアンの卵を兵器開発の資源として地球へ持ち帰ろうと企む。
利益のためなら民間人の犠牲も厭わないこの極めて父権的・資本主義的な論理に対し、リプリーは真っ向からノーを突きつけ、母性の名の下にその野望を粉砕する。
劇中、エイリアンの生態を見たリプリーがバークに対し「彼ら(エイリアン)の方がマシよ。パーセンテージのために仲間を殺し合ったりしない」と言い放つシーンには、キャメロンの行き過ぎた資本主義や軍産複合体への強烈な批判と、倫理的な抵抗という政治的メッセージがはっきりと透けて見える。
また、冷戦後期のレーガン政権下のアメリカ社会を映す鏡としての側面も見逃せない。植民地化された惑星に棲息する原住民(エイリアン)を最新鋭の武力で制圧しようとする人類の傲慢な姿は、帝国主義的な征服の寓話であり、泥沼化していく戦局はベトナム戦争のトラウマを鮮明に呼び起こす。
最新兵器で武装したエリート海兵隊が、圧倒的な数を誇る原始的な“他者”の前に次々と無力化されていく構図は、アメリカが抱える軍事的なトラウマの再演にして、テクノロジー信仰への痛烈な皮肉でもあるのだ。
そして特筆すべきは、見事な「ジェンダーの反転」である。リプリーや、ジェニット・ゴールドスタイン演じる男勝りなスマートガン手バスクエスといった女性たちが、危機的状況下で果敢に戦う戦闘的主体として、また冷静な判断を下すリーダーとして描かれる。
一方で、ハドソンをはじめとする男性兵士たちや指揮官のゴーマン中尉は、いざ実戦となるとパニックに陥り、恐怖に駆られて無様に絶叫し、あるいは硬直してしまう。
80年代のハリウッドを席巻していた、アーノルド・シュワルツェネッガーやシルヴェスター・スタローン的なマッチョな筋肉アクションの文脈を逆手に取り、本作は母なる力(=女性の根源的な強さ)こそが、真のタフネスであることを証明してみせたのである(キャメロン自身が戦う強い女性を好むという個人的なフェティシズムは、ここでは一旦棚に上げておく)。
『エイリアン2』は、単にエイリアンがたくさん出てくる派手な映画ではない。それは未知の他者との凄惨な対峙であり、母性と父権の激しい衝突であり、帝国主義や企業論理への痛烈な批判であり、そしてジェンダー構造を見事にひっくり返した革命的な作品なのだ。
- 監督/ジェームズ・キャメロン
- 脚本/ジェームズ・キャメロン
- 製作/ゲイル・アン・ハード
- 製作総指揮/ゴードン・キャロル、デヴィッド・ガイラー、ウォルター・ヒル
- 制作会社/20世紀フォックス、ブランディワイン・プロダクションズ
- 撮影/エイドリアン・ビドル
- 音楽/ジェームズ・ホーナー
- 編集/レイ・ラヴジョイ
- 美術/ピーター・ラモント
- 衣装/エマ・ポーテウス
- 録音/グラハム・V・ハートストーン
- ターミネーター(1984年/アメリカ)
- エイリアン2(1986年/アメリカ)
- ターミネーター2(1991年/アメリカ)
- トゥルーライズ(1994年/アメリカ)
- タイタニック(1997年/アメリカ)
- アバター(2009年/アメリカ)
- アバター ウェイ・オブ・ウォーター(2022年/アメリカ)
- アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ(2025年/アメリカ)
- ビリー・アイリッシュ HIT ME HARD AND SOFT : THE TOUR (LIVE IN 3D)(2026年/アメリカ)
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