『リトル・ダンサー』(2000年/スティーヴン・ダルドリー)
テーマと意味をネタバレ考察・あらすじ・批評・レビュー
『リトル・ダンサー』(原題:Billy Elliot/2000年)は、リー・ホールが脚本を執筆し、スティーヴン・ダルドリーが監督を務めたイギリス映画。1984年から1985年にかけて発生したイギリス炭鉱ストライキ下のイングランド北東部ダラム州を舞台に、炭鉱夫の父ジャッキー(ゲイリー・ルイス)や兄トニー(ジェイミー・ドラヴェン)と暮らす11歳の少年ビリー・エリオット(ジェイミー・ベル)が、バレエ教室に参加してダンサーを目指す。第54回英国アカデミー賞において英国作品賞、主演男優賞、助演女優賞を受賞し、第73回アカデミー賞で監督賞など3部門にノミネートされる実績を残したほか、のちにエルトン・ジョンの音楽によって舞台ミュージカル化された。
- 2000年ナショナル・ボード・オブ・レビュー:新人男優賞(ジェイミー・ベル)、作品賞トップ10
- 第25回日本アカデミー賞:最優秀外国作品賞
- 第74回キネマ旬報(外国映画):第2位
過剰なカットバックが奪う運動の連続性
『リトル・ダンサー』(2000年)の舞台となるのは、サッチャリズムの嵐でガチガチに冷え切った、1984年のイングランド北東部の炭坑町。ここでは、男は黙って肉体労働!的な家父長制が絶対のルールだ。
主人公である11歳の少年ビリーは、ストライキでピリピリする父親や兄に囲まれ、灰色の毎日を送っている。逃げ場として通っていた古びたボクシング教室で、彼はバレエに出会ってしまう。グローブを放り投げ、未知のステップを踏み出した瞬間、ビリーの身体はこのマッチョな炭鉱町における強烈な異物と化す。
鉄と煤にまみれた世界で、クラシック・バレエを踊る少年。それは男らしさという分厚い壁に対する、最高にエレガントな反逆だ。スティーヴン・ダルドリー監督のカメラは、煤けた煉瓦の壁や怒号が飛び交うむさ苦しい空間のなかで、ビリーの小柄な身体だけが軽やかに宙を舞うという強烈なギャップ萌えを見事に捉えている。この圧倒的な場違い感こそが、本作最大の魅力にして最強のフックなのだ。
だが、ここでひとつ大きなツッコミを入れざるを得ないのが、ダルドリー監督の編集やりすぎ問題。ビリーが情熱的に壁にぶつかりながら踊るエモーショナルなシーンに、突然ストライキで暴れる家族や、警官隊との大乱闘といったフッテージが、これでもかとばかりにカットバックでぶっ込まれるのだ。
ダンスという芸術は、リズムと呼吸の連続性を味わうもの。それを意味の断片として容赦なく細切れにしてしまうのは、あまりにももったいない。
社会の抑圧と芸術の解放をモンタージュで表現したいという意気込みは買うが、結果として映画本来の肉体的なリズムがズタボロになってしまっているのだ。
キャラクター造形に残るピントの甘さ
ビリーとバレエ教師ウィルキンソン夫人(ジュリー・ウォルターズ)の関係性は、本作における最高にスリリングなスパイスだ。
タバコをふかしながら容赦ない毒舌を浴びせる彼女は、母を亡くしたビリーにとって、ニコチンまみれのフェアリー・ゴッドマザー。田舎町でくすぶる彼女の孤独と、ビリーの才能が共鳴して生まれる奇妙な連帯感は、めちゃくちゃエッジが効いていて素晴らしい。
しかし、物語が後半に進むにつれて彼女の出番がフェードアウトし、庇護者のポジションが父親ジャッキー(ゲイリー・ルイス)へとバトンタッチされると、急に父と子の涙の和解というホームドラマに着地してしまう。
『ベスト・キッド』(1984年)で例えるなら、ミヤギさんが途中で田舎に帰ってしまい、ダニエルのお父さんが急にしゃしゃり出てきて感動をさらうようなズッコケ感がある。
おまけに、ジェイミー・ベル演じるビリーの「反抗期」の描写も少々ピントが甘い。抑圧への言葉にならない怒りをダンスで表現するナイーブな少年のはずが、時折ただの癇癪持ちの悪ガキに見えてしまう瞬間があり、観客が彼の心に寄り添う前に置いてけぼりを食らってしまうのだ。
抑圧を振り切る希望のリズム
色々と不満も並べたが、それでもなお『リトル・ダンサー』が見事な感動作に仕上がっている。『フル・モンティ』(1997年)や『ブラス!』(1996年)にも通じる、イギリス映画特有の抵抗の詩学の系譜をしっかりと受け継いでいるからだ。
特に素晴らしいのが、ロイヤル・バレエ学校のオーディションシーン。お堅い審査員に「踊っているときはどんな気持ちか」と問われたビリーが、言葉の代わりに電気のような衝動を語る瞬間。
ここでカメラは小賢しい編集をすっぱりと諦め、真正面から彼の熱量を捉えきる。重力を裏切って飛翔しようとする少年の姿は、もはや純粋な「祈り」だ。
そして極めつけは、成長したビリー(アダム・クーパー)が、マシュー・ボーン振付の『白鳥の湖』の舞台で見せるラストシーン。労働者階級で鍛え上げられたかのようなバッキバキの背中と、洗練された芸術の完璧なフュージョン!
あの劇的すぎる大跳躍を見せられた瞬間、「編集がどうの」といった些末な不満はすべて宇宙の彼方へ吹き飛んでしまう。抑圧の重力を振り切る身体の美しさは、今なお僕たちの胸を熱く焦がし続けているのだ。
- 監督/スティーヴン・ダルドリー
- 脚本/リー・ホール
- 製作/グレッグ・ブレナン、ジョン・フィン
- 製作総指揮/ナターシャ・ワートン、チャールズ・ブランド、テッサ・ロス、デヴィッド・エム・トンプソン
- 撮影/ブライアン・テュファノ
- 編集/ジョン・ウィルソン
- 美術/マリア・ジャコヴィック
- 衣装/スチュアート・ミッチャム
- リトル・ダンサー(2000年/イギリス)
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