始まって数分程度で、グウィネス・パルトロウ演じるベスが、コロリとあの世行き。アカデミー賞女優に対するこの仕打ちは何事か!と、思わず我が目を疑ってしまった。
しかも遺体検査の際、眼を見開いた彼女の頭皮がベロンと剥がされるという、グウィネス史上最も残酷なシーンが待ち受けている。
ウィルスを扱ったパニック・サスペンス映画『コンテイジョン』においては、アカデミー賞俳優だろうが誰だろうが、災厄は等しく訪れるんである。
『トラフィック』や『オーシャンズ11』に代表されるような、“オールスター・キャスト群衆劇”を自家薬籠中のものとしたスティーヴン・ソダーバーグ。様々な登場人物の視点がクロスカッティングされる『コンテイジョン』もまた、彼の得意パターン映画だ。
マリオン・コティヤール、マット・デイモン、グウィネス・パルトロウ、ローレンス・フィッシュバーン、ジュード・ロウ、ケイト・ウィンスレットと、この映画でも当代きっての演技派をこれでもかとラインナップ。
大きく分けて5つのポイント・オブ・ビューで物語を構築している。
- 妻のベス(グウィネス・パルトロウ)を失い、一人娘だけは助けようと苦闘するミッチ(マット・デイモン)の視点
- 政府が裏で製薬会社とツルんでるのでは?と疑惑を抱くフリー・ジャーナリストのアラン・クラムウィディ(ジュード・ロウ)の視点
- WHOから現場に派遣されるレオノーラ・オランテス博士(マリオン・コティヤール)の視点
- 疾病予防センターの最高責任者として、事態の収拾をはかるエリス・チーヴァー博士(ローレンス・フィッシュバーン)の視点
- チーヴァー博士の指示でミネソタに派遣されるエリン・ミアーズ博士(ケイト・ウィンスレット)の視点
《1》は一般ピーポーから見た世界の混乱、《2》はジャーナリストから見た策謀渦巻く政治的背景、《3》《4》《5》は現場視点からの事態の収拾&混乱が描かれる。
5つもの話をカットバックで繋ぐなんぞ、ヘタすればまとまりを欠いた「しっちゃかめっちゃか話」になりそうなもんだが、さすがはソダーバーグ先生。ソツのない呼吸の編集術でシームレスに物語を紡いでいく。
ウィルス・パニック・サスペンスといえば、ダスティン・ホフマン主演の『アウトブレイク』が真っ先に浮かぶが、『コンテイジョン』はウィルス拡大の恐怖とそれにまつわる攻防がメインではなく、秩序回復の物語だ。
未曾有の事態のなか、人々はどのように危機を克服するのか。ウィルスの治療薬が発見された後は、どのようなプロセスを経て世界の平穏を取り戻していくのか。
欧米中心に支給される治療薬を確保するため、中国衛生部のスタッフがWHOオランテス博士(マリオン・コティヤール)を拉致してしまうエピソードのような、「ワクチンを発見したその後」にフォーカスを当てたのが新基軸である。
観客から最も共感を受けやすいであろう一般市民のミッチ(マット・デイモン)は、娘を守ることが精一杯でドラマティックな場面は用意されていないし、フリー・ジャーナリストのアラン・クラムウィディ(ジュード・ロウ)は非常に興味深いキャラクターであるはずなのに、時間が経過するに連れて人間としての薄っぺらさに拍車がかかっていく。事
態の究明に尽力するエリン・ミアーズ博士(ケイト・ウィンスレット)に至っては、彼女のパーソナリティーが判然とせぬまま非業の死を遂げる。
オスカー級の有名スターを揃えたにも関わらず、彼らに決定的な見せ場をあえて剥奪することによって、スティーヴン・ソダーバーグは俯瞰的視座からの群衆劇に徹し、リアリティの確保に成功している。
だが視点を5つに分解した結果、映画を牽引する骨太なストーリーラインが決定的に欠けてしまうという、シナリオの脆弱さを露呈する羽目にも陥ってしまっている。
映画の最初に「DAY2」を、最後に「DAY1」を持って来るという、ソダーバーグの好きな時制倒置をこの映画でも行っているが、これもまた効果的に作動していない模様。
良い意味でも悪い意味でも、ソダーバーグという映画作家の“らしさ”が発揮された一編だ。
- 原題/Contagion
- 製作年/2011年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/105分
- 監督/スティーヴン・ソダーバーグ
- 製作/マイケル・シャンバーグ、ステイシー・シェア、グレゴリー・ジェイコブズ
- 製作総指揮/ジェフ・スコール、マイケル・ポレール、ジョナサン・キング
- 脚本/スコット・Z・バーンズ
- 撮影/ピーター・アンドリュース
- プロダクションデザイン/ハワード・カミングス
- 衣装/ルイーズ・フログリー
- 編集/スティーヴン・ミリオン
- 音楽/クリフ・マルティネス
- マリオン・コティヤール
- マット・デイモン
- ローレンス・フィッシュバーン
- ジュード・ロウ
- グウィネス・パルトロー
- ケイト・ウィンスレット
- ブライアン・クランストン
- ジェニファー・イーリー
- サナ・レイサン
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