仏教的無常観をたたえた、泰然自若な内田吐夢版『大菩薩峠』
岡本喜八監督の『大菩薩峠』(1966年)は観ていたので、中里介山作の長編時代小説『大菩薩峠』の映像化作品は2度目の鑑賞なのだが、いやー濃厚な映画ですね。
人間のあらゆる所業を悠然と見据えた視点は、泰然自若の域。岡本喜八版がクール&ソリッドな印象だったのに対し、仏教的無常観をたたえた作風は、さすが極寒のシベリアで抑留生活を生き抜いた内田吐夢監督ならでは。甘粕正彦の最後を看取ったという、スゴイ逸話を持つだけのことはあります。
特に血なまぐさいシーンがインサートされている訳でもないんだが、虚無的な死生観が全編を貫いている映画だけに、チャンバラシーンでは異様な殺気が漂ってくる。
しかも内田吐夢はアクションを遠景の長回しで撮ることにこだわっており、アクションを盛り上げるためのクローズアップや細かなカット割りは極力排除。第三者が覗き見ているかのような、不思議な映像感覚なのだ。
特に天誅組と一緒に山小屋に逃げ延びた机龍之介が、新政府軍とチャンバラを繰り広げる場面では、完全にカメラはフィックスされ、役者が少しずつ画面奥へ移動していく。
「机龍之介はこの多勢を相手に逃げ切れるのか」という関心が、映像的には「机龍之介は画面奥までたどりつけられるのか」に置換されているのだ。このあたりのセンス、凡百の映画監督ではなかなか太刀打ちできない。
渡辺邦男監督バージョンに引き続き机龍之介を演じる片岡千恵蔵は、齢50を過ぎながらも妖気ただよう殺陣を披露しているが、如何ともしがたいほどに何を言っているのか分からない。
いやホント、低音ボイスでブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツつぶやいているだけなので、よほど集中して聞かないと物語の前後関係がさっぱり掴めなくなる。
とりあえず千恵蔵の前時代的芝居には目をつぶって、彼のセリフは音量を大きくして鑑賞することをお勧めいたします。
- 製作年/1957年
- 製作国/日本
- 上映時間/118分
- 監督/内田吐夢
- 製作/大川博
- 原作/中里介山
- 脚本/猪俣勝人、柴英三郎
- 企画/マキノ光雄、玉木潤一郎、南里金春
- 撮影/三木滋人
- 音楽/深井史郎
- 美術/鈴木孝俊
- 編集/宮本信太郎
- 録音/佐々木稔郎
- 照明/田中憲次
- 片岡千恵蔵
- 中村錦之助
- 月形龍之介
- 大河内伝次郎
- 長谷川裕見子
- 浦里はるみ
- 丘さとみ
- 日高澄子
- 山形勲
- 岸井明
- 永田靖
- 左卜全
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