晩年のフェリーニが描く、甘いノスタルジーとロマンティシズム
フェリーニの映画は、饒舌極まりない。
登場人物たちは皆、腹にためている喜怒哀楽を最大出力で吐き出していく。特に『ジンジャーとフレッド』は、キャラ立ちしたドサ周り芸人が大挙出演するからして、とりとめのない会話が四方八方で繰り広げられる。
小人だらけの楽隊、老人だらけのバンド(一人は常に痙攣を起こしている!)、性転換したシンガー、心霊の声を録音できると言い張るアヤしい親子…。ほとんどフリークス化しているキャラクターたちの百花繚乱に、フェリーニのサーカス趣味が垣間見える。
この映画を観るにあたっては、この猥雑さと煩わしさに打ち勝つ心構えが必要とされるだろう。
しかしながら、物語はいたってシンプル。フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースを模して人気を博したタップダンス・コンビ“ジンジャーとフレッド”が、クリスマスの特別番組に出演するために30年ぶりに再会。かつて恋人同士だった二人は、若き日のときめきデイズに思いを馳せる。
やがて本番を迎え、息を切らしながらも懸命にタップを披露する二人に、スタジオから万来の拍手が。そして番組終了後、二人は駅で別れを迎える…。
禿げ上がったマルチェロ・マストロヤンニの後頭部が、時の移ろいを残酷に暴きだすも、フェリーニの語り口はあくまでペーソスたっぷり。ノスタルジーとロマンティシズムの横溢に、心がほっこりしてしまう。
そして何よりもジュリエッタ・マシーナ!この名前を聞いてまず目に浮かぶのは、名作『道』で知的障害を抱えつつも、天使のような優しさをふりまいたジェルソミーナである。
そのジェルソミーナが30年の時を経て、ジンジャーに名を変えてショウビズの世界に舞い戻ってきた、と考えてしまうのは僕だけではないだろう。
『ジンジャーとフレッド』は、フェリーニによるテレビの視聴者迎合主義批判ともいえるが、まず何よりも甘いノスタルジーに酔うべき作品である。
アフレコ丸だしのイタリア語が全編耳をつんざくのは正直参ってしまうが、それもフェリーニ映画の通過儀礼と観念するべし。
- 原題/Ginger Et Fred
- 製作年/1985年
- 製作国/イタリア、フランス、西ドイツ
- 上映時間/128分
- 監督/フェデリコ・フェリーニ
- 製作/アルベルト・グリマルディ
- 脚本/フェデリコ・フェリーニ、トニーノ・グエッラ
- 原作/フェデリコ・フェリーニ
- 撮影/トニーノ・デリ・コリ、エンニオ・グァルニエリ
- 音楽/ニコラ・ピオヴァーニ
- 衣装/ダニーロ・ドナーティ
- 美術/ダンテ・フェレッティ
- 編集/ニーノ・バラーリ、ウーゴ・デ・ロッシ、ルッジェーロ・マストロヤンニ
- マルチェロ・マストロヤンニ
- ジュリエッタ・マシーナ
- ファビオ・ファブリッツィ
- フレデリック・レデブール
- フランコ・ファブリッツィ
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