ヒロトの歌詞に青春時代を仮託しない、非熱血系青春
たぶん、『リンダ リンダ リンダ』(2005年)が限りなくチャーミングなのは、ギャルバンが文化祭でブルーハーツを演奏することによって何かが変わる訳でもなく、日常に劇的な変化が訪れることもなく、一過性のものにすぎないことを、主人公たちが知りすぎているぐらいに知っていることだ。
そのある種の諦観が、ただ文化祭という非日常的空間に、思いっきりその身を浸してみたいという、まったりとした非熱血系ドラマに仕上げている。
彼女たちは、ヒロトの歌詞に青春時代を仮託していない。タテノリのビートならば観客にウケるだろう、という場当たり的判断からだ。
これは憶測だが、山下敦弘監督自身もブルーハーツに何の思い入れもないのではないか。それはあくまでドラマを転がしていくためのツールに過ぎない。対象に対するビミョーな距離感が、物語構造として近似している『スウィング・ガールズ』(2004年)との決定的な差異である。
本番の演奏シーンのカット割りもいい。熱狂するオーディエンスはあくまでロングで捉え、ペ・ドゥナを真後ろから捉えたカットと真横から捉えたカットをベースにエディットしていて、画面が高揚しないように注意を払っている。
特に真横からの視線は、バックステージ(舞台裏)からの視線となる訳で、つまりは主催者側、関係者側の視線として定着される。熱狂とは程遠い位置にカメラを据え置いているのだ。
二曲目の『終わらない歌』にいたっては、演奏シーンはいっさい映し出されず、校舎の外で大雨が降っているカットを繋ぐだけ。
彼女たちのホットな演奏で、オーディエンスが引き込まれるように増えていったのではなく、雨よけのためにたまたま体育館に人が集まったことを明示している。この徹底した抑制ぶりは、さすがオフビート・フィルムメーカー山下敦弘なり。
ちなみに、映画内では聞き取りづらかったのだが、ペ・ドゥナが勝手に命名したバンド名は「パーランマウム」。韓国語で「青い心」、即ちブルーハーツ。日本語キャプションがないとさっぱり分からないぞ、山下敦弘!
《補足》
ペ・ドゥナたちが居眠りで大遅刻してしまい、間を持たせるために湯川潮音がその美声を披露するシーンがあるのだが、特に2曲目に歌う『風来坊』には小生感動。
言わずと知れた、はっぴいえんど時代の細野晴臣の大名曲。ME-ISMの山崎優子のギターに乗せて、ふくよかで包容力のあるヴォーカルが体育館いっぱいに広がる。
プリプリもジッタリンジンも懐メロ世代の高校生たちにこの楽曲はどのように響いたのか、オジサン的にはとても関心があるぞ。
- 製作年/2005年
- 製作国/日本
- 上映時間/114分
- 監督/山下敦弘
- 脚本/向井康介、宮下和雅子、山下敦弘
- 製作/大島満、定井勇二、高野健一
- プロデューサー/根岸洋之、定井勇二
- ラインプロデューサー/大里俊博
- 音楽/ジェームス・イハ
- 監督補/大崎章
- 撮影/池内義浩
- 照明/大坂章夫
- 録音/郡弘道
- 美術/松尾文子、磯見俊裕
- ペ・ドゥナ
- 前田亜季
- 香椎由宇
- 関根史織
- 三村恭代
- 山崎優子
- 湯川潮音
- 小林且弥
- 甲本雅裕
- 松山ケンイチ
- 小出恵介
- 藤井かほり
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