ウェットな人情劇と対極に位置する、オタク兄弟の素敵デイズ
森田芳光に対する僕の印象は、ニューアカ勃興期に『家族ゲーム』(1983年)で注目を浴び、バブル絶頂期に『バカヤロー!』(1988年)シリーズで泣く子も黙るヒットメーカーになったという、時代の空気に呼応するかのように誕生した新人類(死語)監督というイメージである。
特に僕は彼の熱心な観客という訳ではないけれでも、それはなかなか厳しいスタンスであったように思う。つまりバブルが崩壊してしまった後、その新人類的感性は忌み嫌われるものとなってしまい、「カッコ悪いもの」にカテゴライズされるようになってしまったのだ。
事実、森田芳光は「バブル崩壊後の時期から、映画製作に迷いが生じた」と告白しており、競馬エッセイなど、文化人的なスタンスを指向するようになる。
やがて、パソコン通信からほのかな恋愛が芽生える『HAL』を発表後は、文芸、サスペンス、恋愛、青春映画といったカテゴリを横断して、非常にバランスのとれたエンターテインメント作品を製作していく。
しかし中居クンが天才犯罪者ピースを演じた『模倣犯』(2002年)における、ほとんど狂気の沙汰としか思えないラストシーンを目の当たりにして、近年森田芳光は、再び森田芳光であることを取り戻そうとしているんではないか、と感じた。
原作者の宮部みゆきをはじめ、評論家・観客からも総じて大酷評を受けたこのシーンは、おそらく彼なりのメディア論を展開した結果である(理解できる人間は皆無かもしれないが)。
映画の構造を破壊させてまでも、彼は“モリタヨシミツ”という固有名詞を映画に刻印し、批評を行いたかったのだ。本来ならば、オタク兄弟の素敵デイズを描く心暖まる一編になるはずだった、江國香織原作の『間宮兄弟』(2006年)においても、森田芳光は徹底してシニカルな視座から物語を紡いでしまう。
リスのごとく前歯で小刻みにモノを食べたり、餃子じゃんけんをしたり、プラスチックバット片手に野球観戦に熱中したりするシークエンスが、ハートウォーミングというよりはウィアードな印象を受けてしまうのはそのせいだ。
佐々木蔵之介&塚地武雅が演じる兄弟が、何度か着ぐるみになる場面が挿入されるのだが、これは非常に象徴的のように思う。「幼児性を残したペルソナを意図的に装着しないと、世俗的な社会生活に馴染めない」という、彼らに対する非常にクールな批評のように見えるからだ。
森田芳光はおそらく間宮兄弟にシンパシーなんぞ感じちゃいない。だからこそ、ウェットな手触りのベタベタした人情劇とは対極に本作は位置している。
《補足》
常盤貴子はエロいし、沢尻エリカはキュートだし、戸田菜穂は可憐。異質な存在としての間宮兄弟を相対的に浮かび上がらせる仕掛けではあるものの、本作に登場する女優さんは皆イイと思う。特に、常盤貴子の太ももチラ見せはサービス満点なり!
- 製作年/2006年
- 製作国/日本
- 上映時間/119分
- 監督/森田芳光
- プロデューサー/柘植靖司、三沢和子
- プロデュース/豊島雅郎
- エグゼクティブプロデューサー/椎名保
- 原作/江國香織
- 脚本/森田芳光
- 撮影/高瀬比呂志
- 美術/山崎秀満
- 衣裳/宮本まさ江
- 編集/田中愼二
- 音楽/大島ミチル
- 照明/渡邊孝一
- 録音/高野泰雄
- 佐々木蔵之介
- 塚地武雅
- 常盤貴子
- 沢尻エリカ
- 北川景子
- 戸田菜穂
- 岩崎ひろみ
- 佐藤隆太
- 広田レオナ
- 加藤治子
- 高嶋政宏
- 中島みゆき
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