仕掛けた伏線が機能しない、笑えないコメディー
三谷幸喜作品としては『ラジヲの時間』(1997年)以来、四年振りの新作。
しかも映画用のオリジナル脚本である。三谷氏が目指した「たくさん笑って、最後にホロリとさせる」というキャッチコピーどおり、この人の作品には珍しく感傷的なラストが印象深い(障子ごしに八木亜希子が父に『ありがとう』というシーンは、ちょっと小津安二郎っぽい)。
しかし、「たくさん笑って…」という前段に関しては、やや疑問が残る。コメディーなのに笑えないのだ。
その理由は明らかで、「笑い」として仕掛けた伏線があまり機能しないから。田中直樹がなぜか唐沢寿明と田中邦衛の仲が良くなることに嫉妬するとか、野際陽子の経営しているクラブのおねーちゃんたちが新築祝いに駆け付けるだとか、伏線が伏線として機能しきれていない。
「たくさん笑って、最後にホロリとさせる」という三谷氏の計算は少々狂ってしまったらしい。この人の脚本は箱庭的なディティールはマニアックで面白いが、話を空間的に広げるとどんどん凡庸な展開になってしまう欠点があるようだ。
建築中の家に舞台を絞り込めば(つまり、芸術家肌の唐沢寿明と、職人肌の田中邦衛の対立にストーリーを絞り込めば)ドラマが直線的に盛り上がっていったんだろうが、他のエピソードがメインストーリーの邪魔をして、映画としての輪郭がボヤけてしまった。
事実、後半八木亜希子はほとんど登場しない。いっそ主演の四人にドラマを全て預けてしまった方が良かったのかも知れない。
キャスティングのセンスは素晴らしい。『明石家サンタ』でいつも笑顔をふりまいている八木亜希子も初々しいし、『ココリコ・ミラクルタイプ』(2001年〜2007年)でマニアックな演技を披露している田中直樹も頑張っている。
何と言ってもスゴイのが田中邦衛。彼自身が彼の物まねをしているのではないか、というくらいの邦衛節全開である。「俺、内向きのドアなんてつくれねえよおおおお~」なんていうセリフは、ほとんどコントの世界。映画としてじゃなく、壮大なバラエティーとして観賞すれば面白いかもしれんなあ。
- 製作年/2001年
- 製作国/日本
- 上映時間/115分
- 監督/三谷幸喜
- 脚本/三谷幸喜
- 製作/宮内正喜、高井英幸
- 製作総指揮/石原隆、増田久雄
- プロデューサー/佐倉寛二郎、空閑由美子、重岡由美子
- 企画/石丸省一郎、島谷能成
- 音楽/服部隆之
- 美術/小川富美夫
- 編集/上野聡一
- 撮影/高間堅治
- 唐沢寿明
- 田中邦衛
- 田中直樹
- 八木亜希子
- 野際陽子
- 吉村実子
- 清水ミチコ
- 山寺宏一
- 伊原剛志
- 白井晃
- 八名信夫
- 中井貴一
- 近藤芳正
- 戸田恵子
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