横溝センセイも泡吹く超絶ゴスっぷり!中世修道院を舞台にした知的ミステリー
14世紀初頭、北イタリアのベネディクト派修道院。ここで開かれる諮問会議に招かれた修道士のウィリアムと弟子のアドソは、陰惨で猟奇的な連続殺人事件に巻き込まれる。
事件のポイントは、僧院に隠されていた「知識の宝庫」である巨大図書館にあった。異端を恐れる僧侶たちと対決しながら、ウィリアムは真犯人を追い詰めていく…。
原作は、1990年度の翻訳ミステリーベスト1に輝いた同名ベストセラー小説。上下巻で800ページを優に超える大長編であるうえに、アリストテレスやら神学論争やら異端論議やら、なまじっかの脳味噌では太刀打ちできないほどに“知”の言説がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。僕も意気揚々と購入したはいいものの、わずか数十ページで挫折してしまいました。
おっそろしく膨大かつ難解、これだけ密度の濃い作品を映画化するなんぞ不可能に思えたが、ジャン・ジャック・アノーは基本フォーマットだけを換骨奪胎したダイジェスト版を上梓してしまった。
だから原作にあるような「神学論争」なんて七面倒臭い描写はまるまるカット。原作の熱心なファンにとっては、濃厚なテイストが大分薄まってしまった感はあるが、それでも黙示録的雰囲気が漂う異色のミステリーに仕上がっている。
ショーン・コネリー演じるバスカビルのウィリアムと、クリスチャン・スレーター演じるアドソの師弟コンビは、シャーロック・ホームズとワトソンの関係を踏襲。実際、バスカビルのウィリアムという名前はホームズの傑作長篇『バスカビル家の犬』からとられたものらしい。
純粋な論理学と弁証法で、猟奇に満ちた殺人事件を解きあかしていく様子は、本格ミステリー・ファンにはたまらない展開だろう。まさに、暗黒の中世修道院を舞台にしたホームズ冒険談なり。
魅惑に満ちたビジュアルは、さながら西欧版横溝正史といった趣き。死体が壺の中にまっ逆さまになっているシーンは『犬神家の一族』(1976年)みたいだし、僧院内部のラビリンスはまるで『八つ墓村』(1977年)。
うーむ、横溝センセイも泡吹きそうな超絶ゴスっぷり!ポランスキー、パゾリーニといった鬼才とタッグを組んできた撮影監督トニーノ・デリ・コリの面目躍如。
『薔薇の名前』というタイトルの由来にもなっている、クリスチャン・スレーターと名も知らぬ女性とのロマンスは、いささか水マシ気味だが(当時15歳だったスレーター君が22歳のヴァレンティナ・ヴァルガスと濃厚に絡むっていうのがスゴイですね)、本作は上質のミステリーだけが表現得る、甘い媚薬が充満している。
汝がミステリーファンならば、この作品を見逃すなかれ。
- 原題/The Name Of The Rose
- 製作年/1986年
- 製作国/フランス、西ドイツ、イタリア
- 上映時間/132分
- 監督/ジャン・ジャック・アノー
- 製作/ベルント・アイヒンガー
- 製作総指揮/トーマス・シューリー
- 原作/ウンベルト・エーコ
- 脚本/ジェラール・ブラッシュ、ハワード・フランクリン、アンドリュー・バーキン、アラン・ゴダール
- 撮影/トニーノ・デリ・コリ
- 音楽/ジェームズ・ホーナー
- ショーン・コネリー
- F・マーリー・エイブラハム
- クリスチャン・スレーター
- イリア・バスキン
- フェオドール・シャリアピン・ジュニア
- ウィリアム・ヒッキー
- ミシェル・ロンズデール
- ロン・パールマン
- キム・ロッシ=スチュアート
- ドナル・オブライアン
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