『ヘイ・ジュード』のインストゥルメンタルから始まるこの『ロイヤル・テネンバウムズ』は、ポップでキュートなスクリューボール・コメディーだ。…と思っていたのも束の間、映画の後半には悲恋による自殺未遂というヘビーな展開が待ち受けている。
『天才マックスの世界』で抜群の映画センスを披露したアンダーソン=ウイルソンコンビが、奇妙な人間たちを描く実に奇妙な映画を撮りあげた。
長男のベン・スティラーがADIDAS、長女のグウィネス・パルトロウがLACOSTE、次男のルーク・ウィルソン(ビヨン・ボルグ似なのが笑える)がFILAといったブランドに身を包んでいるのは、キャラクターの記号化に他ならない。
極端にデフォルメされたキャラクターたちは、しかし完全に戯画化されているかといえばそうでもなく、ぞれぞれが深い闇を抱えたリアルな人物造型だったりする。
紙芝居的・寓話的な物語を紡ぎながら、あらゆるファクターが重層的にアンサンブルを奏でていく。「おちぶれてしまった天才」というモチーに貫かれたシチュエーション・コメディーとみせかけて、意外にもエモーショナルに観る者を揺さぶるオーソドックスなホームドラマだったりする。
ジーン・ハックマン演じるロイヤル・テネンバウムズを頂点に、妻のアンジェリカ・ヒューストンと三人の子供たちで形成される人間相関の五角形は、各々の強力な引力によって永遠に正五角形になり得ない。そんなぶかっこうな家族のカタチは、おそろしく滑稽でもありおそろしく残酷でもある。
その「おそろしく滑稽」な部分を良質なコメディーに、「おそろしく残酷」な部分を濃厚な家族ドラマとして描いた『ロイヤル・テネンバウムズ』には、本来なら水と油であるはずの異質なエレメントが不思議な同居をはたしているのだ。
キミョウキテレツな家族再生の物語は、実はまったく奇を狙ったストーリーではない。ビートルズ『ヘイ・ジュード』やローリングストーンズ『ルビー・チューズデー』といったスタンダード・ナンバー中心の選曲が、家族という普遍的なテーマを浮き彫りにする。
スタンダードな物語を、ヘンなキャストとスタンダードな曲とヘンな語り口で。不思議に渾然一体とした、これは実にヘンな映画である。
- 原題/The Royal Tenenbaums
- 製作年/2002年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/110分
- 監督/ウェス・アンダーソン
- 脚本/ウェス・アンダーソン
- 製作/ウェス・アンダーソン、バリー・メンデル、スコット・ルーディン
- 製作総指揮/ラッド・シモンズ、オーウェン・ウィルソン
- 脚本/オーウェン・ウィルソン
- 撮影/ロバート・イオマン
- 音楽/マーク・マザースボー
- ジーン・ハックマン
- アンジェリカ・ヒューストン
- ベン・スティラー
- グウィネス・パルトロウ
- ルーク・ウィルソン
- オーウェン・ウィルソン
- ビル・マーレイ
- ダニー・グローヴァー
- シーモア・カッセル
- クマール・パラーナ
最近のコメント