めまい/アルフレッド・ヒッチコック

めまい [Blu-ray]

めまいがする。強烈なめまいが。

その理由は、媚薬のように甘く幻想的なストーリーにある。マデリーン(キム・ノヴァク)なる女性の調査を依頼された元刑事のファーガソン(ジェームズ・スチュアート)は、ミステリアスな美貌の彼女にたちまち魅了される。

やがて二人は激しく愛しあうようになるが、奇行の目立つ彼女は高所恐怖症の彼を振り切って、教会の屋上から飛び下り自殺をしてしまう。

絶望の淵に落とされたファーガソンは、ある日街でマデリーンそっくりの女性ジュディーに出くわす。マデリーンを忘れられない彼は、なかば強制的にジュデイーとのデートをこぎつけ、さらには服飾店や美容院に連れていっては、彼女をマデリーンとまったく同じ装いに生まれ変わらせようとする。

死んだ恋人の面影をジュディーに見い出し、「彼女をマデリーンそのものに変えてしまいたい」という衝動は、もはや死姦行為。すなわち、彼は幻想とセックスしたいのである。

そんなアブノーマル丸だしな主人公を、「誠実なキャラクターの具現者」であるジェームズ・スチュアートが演じたからこそ、それが悲痛で真摯な想いとして観客に伝わるのだ。

これを別の役者が演じていたら単なる変態にしか見えないだろう(チャールズ・ロートンあたりが演じていたら、絶対R指定である)。『めまい』は、「死」と「性」というメタファーがべったりと貼り付いたテキストなのだ。

めまいがする。強烈なめまいが。

その理由はキム・ノヴァクのしなやかな肢体にある。肉感的で動物的なそのたたずまいは、ジェームズ・スチュアートでなくても大抵の男がノックアウトされることだろう。何しろ彼女は、セクシュアリティーを強調するために、何と全編ノーブラで押し通したのだ!

ヒッチコックはこの役にヴェラ・マイルズを想定していた為か、キム・ノヴァクの演技には満足していなかったらしいが、ヒッチ作品の全フィルモグラフィーを通して最もセクシャルなヒロインであったことは間違いない。

まあ、ヒッチコックという親父は「普段は貞淑なふりをしていながら、いざとなると自分から男のズボンを脱がすような女性が好きだ」なんてのたまっていたから、キム・ノヴァクみたいな全身セックス・アピールみたいな女優は好みじゃなかったんだろうけど。

めまいがする。強烈なめまいが。

その理由は、文字通り“めまい”のようなけだるいタッチにある。映画評論家の町山智浩は、それはヒッチコックの深層心理の具象化であると喝破する。

『めまい』という映画は非論理的すぎて、まるで夢のようでもある。実際、マデリンがカルロッタの墓を訪ねるシーンは紗をかけて意図的に白昼夢のように見せている。

「夢は抑圧された性的欲望の表出だ」とジグムント・フロイトは主張した。ヒッチコックはフロイトに大きな影響を受けて、精神分析や夢のシーンを作中に盛り込むようになった。全体が夢のような『めまい』は、ヒッチコック自身の深層心理の具象化なのだ。
(町山智浩「トラウマ恋愛映画入門」より)

さらに町山智浩は、「階段を登れないこと」は「セックスができないこと」のメタファーである、と続ける。抑圧された性的欲望をフロイト精神分析的アプローチで描いた結果、“めまい”のようなけだるいタッチが生成されたのだ。

めまいがする。強烈なめまいが。

その理由はヒッチコックの流麗な語り口にある。美術館での尾行シーンにおける、息を飲むほど美しいカメラワークよ!このシーンをパロったブライアン・デ・パルマの『殺しのドレス』は、これに比べればかなりカメラワークがあざとい。

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前半ではジェームズ・スチュアートからの視点、そして後半からはキム・ノヴァクの視点でストーリーを語らせてしまうという、大胆極まりない展開もすごい。

「ネタばらしは最後の最後で」というミステリーの法則を敢えて破ったことで、サスペンス物というよりも異色のラブストーリーという印象を強めることに成功した。だからこそ、あの悲劇的な結末がより効果的なのである。その強烈なショック。

それは、まるでめまいにも似た…めまいが…めまいがする…ああ、めまいが…。

DATA
  • 原題/Vertigo
  • 製作年/1958年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/128分
STAFF
  • 監督/アルフレッド・ヒッチコック
  • 原作/ピエール・ボワロー
  • 脚本/アレック・コッペル、サム・テイラー
  • 製作/アルフレッド・ヒッチコック
  • 撮影/ロバート・バークス
  • 音楽/バーナード・ハーマン
  • 美術/ハル・ペレイラ、ヘンリー・バムステッド
  • 編集/ジョージ・トマシーニ
  • 衣装/エディス・ヘッド
CAST
  • ジェームズ・スチュアート
  • キム・ノヴァク
  • バーバラ・ベル・ゲデス
  • トム・ヘルモア
  • ヘンリー・ジョーンズ

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