音と音の隙間に清冽さと芳醇さが横たわる、ノンリニア的アルバム
2001年に発表されたコーネリアスの4thアルバム『Point』(2001年)は、音響派的アプローチが清清しい傑作アルバムだった。
電子の音塊と自然界のざわめきが、まるでアルカリイオン水のように奇跡的な融合を果たし、メロディーやビートよりもSonor(響き)に重点が置かれていた。
5年ぶりとなる新作『Sensuous』(2006年)は、さらにその感覚が先鋭化されて、シンプルな音数ゆえにその濃厚さが浮かび上がる、これまた傑作なアルバム。音と音の隙間に、清冽さと芳醇さが横たわっている。
『Point』を“ひとつの点に向かって集約していく”コンセプチャルなアルバムとするなら、『Sensuous』はバラエティーに富んだ音のアイディアが拡散していく、おもちゃ箱的アルバムと言っていいだろう。
ファンク、エレクトロニカ、ニューウェイヴ、ミュージック・コンクリート、スタンダード・ジャズと、もうなんでもござれ状態だが、ひとつひとつの音の粒はより大きく、よりなめらかになった印象。16ビットではなく24ビットで録音したという音楽環境面の変化も大きいのかもしれない。
柔らかなソフトシンセの音がスペーシーな空間を形作ると思いきや、エッジのきいたギターが轟音のように鳴り響いたりと、奏でられる音のコントラストもより明確になった。
そもそも『Sensuous』とは、「感覚的な」、「敏感な」という意味。良くも悪くもリニア的に音が配列された『Point』よりも、ノンリニア的で立体的な音像が体感できるアルバムなんである。
例えば、M-2『Fit Song』。カッティング・ギターとハイハットが一定のリズムを刻んでいるんだけれども、音がとことんまで細分化された結果、もはや小節のアタマがどこにあるか分からないような、不思議なトラックに仕上がっている。
かと思えば、コーネリアス的へヴィー・メタルを突き詰めた『69/96』(1995)を思わせるような、F-6『Gum』のようなアップビートなナンバーも収録されていたりして、懐の広さを感じさせるトラックの充実ぶり。
僕が個人的な好きなトラックは、M-12の『Sleep Warm』。ご存知、20世紀を代表する歌手フランク・シナトラのスタンダード・ナンバーのカバーである。
コーネリアスのインタビューによると、父親(マヒナスターズの三原さと志氏ですね)のレコード棚を整理していたら、シナトラのレコードがたくさん出てきて、一時ハマっていた時期があったらしい。
ポップ・フィールドの最先端で音を創っている職人が、ポップスの王道を生き抜いたフランク・シナトラのナンバーをカバーした、というのは理由もなく何だか嬉しくなる。かつての音響オタク青年が齢を重ねて、ベタなくらいに甘く感傷的なメロディーを許容できるようになった気がするからだ。
調整の狂ったポンコツ・ロボットが、人類が滅んだ地球の片隅でひっそりとお花に水をあげている…。『Sleep Warm』を聴くたび、僕はこんなイメージを夢想する。
薄くオートチューンをかけた小山田のヴォーカル。その無機質なサウンドに向こう側に、人生の甘さと苦さと楽しさと哀しさが垣間見えるようだ。
- アーティスト/Cornelius
- 発売年/2006年
- レーベル/ワーナーミュージック・ジャパン
- Sensuous
- Fit Song
- Breezin’
- Toner
- Wataridori
- Gum
- Scum
- Omstart
- Beep it
- Like a Rolling Stone
- Music
- Sleep Warm
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