1991年生まれの若き音楽家による、たゆまぬ思考とアカデミックな冒険
米津玄師や宇多田ヒカルのトラック・アレンジで注目を集め、『竜とそばかすの姫』サウンドトラックでは約80名という大編成オーケストラを率いて流麗なシンフォニーを鳴らし、『大豆田とわ子と三人の元夫』ではミシェル・ルグランを彷彿とさせる軽妙洒脱なラウンジ・ミュージックをご披露。
1991年生まれの若き音楽家・坂東祐大は、あらゆるジャンルを軽々と横断しながら、その才能を世界に知らしめ続けている。
だが、東京芸術大学音楽学部作曲科を首席で卒業したという彼の主戦場は、あくまで現代音楽。『TRANCE/花火』は、彼が20代で制作した3つの作品ーー『花火』、『TRANCE』、『ドレミのうた』が一枚にコンパイルされたアルバムだ。ここには、彼のたゆまぬ思考とアカデミックな冒険が詰まっている。
『花火』は、第25回芥川作曲賞受賞委嘱作品。火薬を用いたアートで知られる、現代美術家の蔡國強(ツァイ・グオチャン)の作品に着想を得て作曲された。
かつてドビュッシーが波に映る陽のきらめきを交響詩として素描したように、あえて調律を狂わせた強烈な打鍵と、ドーンという打楽器の強打によって、儚くも壮大なファイヤーワークスを表現。堂々たる組曲となっている。
『トランス』は、青葉市子やU-zhaanなどポップ・フィールドで活躍するアーティストを招聘。シュトックハウゼンやペンデレツキのような王道現代音楽の文脈を踏まえつつ、チャーミングなポップネスを感じさせる。
ヨハン・ヨハンソンへのリスペクト・トラック「TRANCE – Trance [Bricolage iii] (homage to Johann Johannsson)」に至っては、最初の数十秒は寝息しか聴こえないというシュールすぎる展開。やっていることはエクスペリメンタルなのに、どこか稚気がある。
そして『ドレミのうた』は、「そもそも12音階って何なのだろう」という少年のような屈託さで、西洋音楽のルーツである平均律を徹底的に解体。
声が分解され、言葉が無効化されるアプローチは、コーネリアスが手がけたサウンドトラック『デザインあ』にも通ずる感覚だ。解体と再構築…それはまさに、現代音楽のテーゼに他ならない。
思えば、かつて武満徹も『ノヴェンバー・ステップス』に代表されるような現代音楽を主戦場にしつつ、黒澤明、大島渚、勅使河原宏といった巨匠に劇伴を提供し、『死んだ男の残したものは』や『翼』などのポップスも作り続けてきた。
坂東祐大もまた、偉大なるマエストロの系譜を継承しつつ、あらゆるフィールドで己の音楽を乱反射していくことだろう。
- アーティスト/坂東祐大
- 発売年/2022年
- レーベル/コロムビア・マーケティング
- Bubbles & Scales [Bricolage i]
- Etude (for flutes)
- Polyclock etude [Bricolage ii]
- Transform and Deform (for bassoon)
- Trance [Bricolage iii] (homage to Johann Johannsson)
- Seesaw (for violin & piano)
- Melting dance [Bricolage iv]
- Untitled / Fantastic (for violin)
- Scene 1 : Introduction
- Scene 2 : Smoke and Fog
- Scene 3 : Burst – pt.1
- Scene 4 : Incidental color
- Scene 5 : Burst – pt.2
- Scene 6:Embers
- Scene 7 : Sky ladder
- Voice Lesson
- Introduction for Morse Code
- Morse Code
- Do-Re-Mi Study i
- Introduction for Hanon exercises
- Hanon exercises
- Do-Re-Mi Study ii
- Invention
- Do-Re-Mi Study iii
- Introduction for Fake Solmization
- Fake Solmization
- Arpeggio
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