YMOは日本の音楽界で極めて異質な存在である。
彼等は「外部からのニッポン」をアイロニカルなエキゾソチズムで表現してしまう。人民服に身をまとい、テクノカットで無表情にたたずむ彼等は、「顔のみえない」ミュージシャンである。その匿名性と、金属的で無機質なサウンドは当時のインテリたちを熱狂させた。
はじめて遭遇するコンピューターミュージックに、当時の音楽評論家たちは語る言葉を持ち合わせていなかった。ただ一人、阿木譲が「テクノ・ポップ」という新語を用いて表現したにとどまるくらいである。
考えてみれば、はっぴいえんどで日本語ロックを確立した細野晴臣が、インストゥルメンタル・ミュージックで新たに挑戦しようというのは、えらく大胆な計画だった。
坂本龍一と高橋幸宏を自宅に招き、
「マーティン・デニーの『ファイアー・クラッカー』を世界マーケットでリリースし、400万枚を売り上げる」
とブチかました時でさえ、三人ともYMOがここまで巨大な存在になるとは思っていなかっただろう。
前衛的なユニットとして終わるはずだったこのバンドは、それを受け止めてしまうだけの急速な時代の成熟によって、メジャーに認知されてしまうのである。裏を返せば、ファーストアルバムの『Yellow Magic Orchestra』(1978年)はノー・プレッシャーのなかで製作された最も自由度の高い作品でもあった。
その存在が巨大になりすぎて、たとえば歌謡曲路線にシフトチェンジしてみたり、スネークマンショーを迎えて脱YMO化をはかったり、そんなコンセプチュアルな戦略をとらざるを得なくなった中期以降の作品には感じることができなくなっていた、ある種の清冽さがこのアルバムには確かに存在しているんである。
『コンピューター・ゲーム』や『アクロバット』に見受けられるピコピコした8ビット音には、細野・坂本・高橋の3人がコンピューターで遊び倒してやろうという遊び心が感じられる。
坂本・高橋が敬愛するゴダールの『東風』、『中国女』、『マッド・ピエロ(気狂いピエロ)』が曲タイトルについてたりするのもその一貫だろう。
「アルバムとして遊び心が感じられる」という意味でいえば、例えば『X∝増殖』(1980年)のほうに軍配が上がるかもしれない。しかし、送り手が明らかに楽しんでつくったアルバムは、『Yellow Magic Orchestra』のほうだ。
最近は受け手である僕のほうが、年齢を重ねて余裕が出てきたせいか、この『Yellow Magic Orchestra』を聴いて一人ニヤリとすることも多くなってきたのだけれど。
- アーティスト/YELLOW MAGIC ORCHESTRA
- 発売年/1978年
- レーベル/ アルファレコード
- コンピューター・ゲーム~サーカスのテーマ
- ファイアー・クラッカー
- シムーン
- コズミック・サーフィン
- コンピューター・ゲーム~インベーダーのテーマ
- 東風
- 中国女
- ブリッジ・オーヴァー・トラブルド・ミュージック
- マッド・ピエロ
- アクロバット
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