『ルート29』(24)の試写に出向いたら、受付の近くに眼鏡をかけた男性が佇んでいた。悪戯っ子のような目つきで、「お、誰か来た」みたいに筆者の姿を眺めていた。この人物が、森井勇佑監督であることを筆者はすぐに察したのだが、「あ、えっと、森井勇佑監督ですか?お目にかかれて光栄です。『こちらあみ子』すごい好きです…」と、ファン丸出しの言葉を投げかけるのもなんだか憚られたので、何も言わずそのまま試写室に入ってしまった。
映画が始まる前に森井監督が登壇して、「あとでぜひ、皆さんの感想を聞かせてください」と挨拶。「今度こそ、森井監督と直にお話できるチャンス!」と心の中でガッツポーズしたのだが、スクリーンを2時間凝視し続け、エンドロールが流れても、この作品に拮抗し得る言葉が何一つ生まれてこない。完全にライター失格。逃げるように、そそくさと試写室をあとにしてしまった。
思えば、森井監督のデビュー作『こちらあみ子』(22)を映画館で目撃したときもそうだった。溢れ出てくるイメージの奔流に圧倒されてしまい、言語中枢が壊滅状態。あみ子が「お化けなんかないさ、おばけなんてうそさ〜」と歌うと、ミイラ男やら、トイレの花子さんやら、歴代の校長先生やら、モコモコ頭の偉人音楽家やらが登場して、気がつけばあみ子と一緒に遊んでいる。不意に訪れるマジカルな場面すらも、それがさも自然であるかのように、映画のなかに慎ましく収まっていた。
ぜひご一読ください!
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