「映画『HERE 時を越えて』ロバート・ゼメキスから映画へのラブレター」という考察/解説レビューをotocotoに寄稿しました。
ロバート・ゼメキス監督の最新作『HERE 時を越えて』は、フライ・オン・ザ・ウォールという撮影手法を劇映画に組み込んだ作品だ。フライ・オン・ザ・ウォール(Fly on the wall)とは、まるで壁に止まっているハエのように、こっそり他人を覗き見る手法のこと。ドキュメンタリー作品で使われる撮影手法で、被写体はカメラの存在を知らず、いつもどおりに振る舞い、ありのままの生活・ありのままの生態が記録される。作り手の感情や意思から完全に解き放たれることによって、スーパーフラットな視点が生成されるのだ。
カメラは固定の場所に据え置かれ、全く同じポジション、同じアングルで、日々の営みを観察する。これだけでも十分実験的だが、策士ゼメキスは、そこにもうひとつ破天荒なアイディアをプラスした。恐竜が地球上を闊歩していた太古の時代、先住民族の時代、開拓期、近代、現代という各時代を、時系列をシャッフルしながら駆け抜けていく。我々は何億年というタイムスパンを、ひとつの固定カメラを通して目撃するのだ。
このように書くと、人類の歴史を壮大なスケールで描いた大作映画のように思えるが、その手触りはとても慎ましやかなヒューマンドラマ。ネイティブ・アメリカンの恋人たち、ベンジャミン・フランクリンの息子、航空工学の愛好家、リクライニングチェア・レイジーボーイの発明家、コロナの猛威にさらされる家族‥‥。この作品に登場するのは、歴史の中心ではなく、その周縁から時代を見つめてきた人々だ。
ぜひご一読ください!
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