史上初の女性アカデミー監督賞受賞者、キャスリン・ビグローが8年ぶりに帰ってきた。前作『デトロイト』(17)以来の沈黙を破り、彼女は再びシネマという名の臨界点へと身を投じる。最新作『ハウス・オブ・ダイナマイト』(25)は、核攻撃の発射から着弾までを描くリアルタイム・スリラー。これまでのキャリアを総括すると同時に、新たな到達点を示す一本だ。
近年のビグロー映画を貫くのは、「時間」という不可視の構造。例えば 『ハート・ロッカー』(08)で描かれたのは、<延長される現在>だった。爆弾処理班の兵士は、常に爆発の瞬間を先送りしながら、終わらない「今」に閉じ込められる。恐怖と快楽が同化する極限状況が、延々と時間を伸ばし続けていた。
続く『ゼロ・ダーク・サーティ』(12)で提示されるのは、<10年という時間の滞留>。それは、オサマ・ビンラディン殺害までの長い捜索の歳月。情報が積み重なり、真実が遅延し、決断は常に後手へと回る。ここで時間は単なる経過ではなく、権力と執念がせめぎ合う摩擦そのものとなる。 『デトロイト』(17)では、時間は一気に収縮し、<一夜の圧縮>となる。1967年の暴動の真っ只中、アルジェ・モーテル事件というわずか数時間の出来事に、アメリカの暴力と制度の歪みを凝縮。時間が短くなればなるほど、出来事は抽象化し、象徴性を増していく。
ぜひご一読ください!
- ハウス・オブ・ダイナマイト(2025年/アメリカ)








