行動主義 レム・コールハース ドキュメント/瀧口範子

行動主義―レム・コールハースドキュメント

あらゆるジャンルで活躍する「天才」レム・コールハースの生態観察日記

「建築」なんてものには1ミクロンほどにも関心がなかったのにもかかわらず、現代を代表する建築家レム・コールハースに関するドキュメント本『行動主義 レム・コールハース ドキュメント』(2004年)を、思わず購入してしまった。

建築に疎い僕も、レム・コールハースが著名な建築家であり、世界を挑発し続ける思想家であり、優れた脚本家であることは承知していた。

古平正義氏による鮮やかなイエローの装丁に惹かれてしまったというのもあるが、まあ単純に言ってしまえば、あらゆるジャンルで活躍する「天才」の生態を詳細に見てみたい、という凡人たるゆえの興味があったんである。

しかもタイトルが「行動主義」ときたもんだ。巨大な知性は、目が回るほどの多産・多作から育まれるのか。平日は家で引き蘢っている僕とは生き方がまるで違いますね。

著者であるジャーナリストの瀧口範子女史はコールハースを「ポリ的人間」と評しているが、確かにポリマス(博識)、ポリアクシアル(多軸)、ポリゴン(多角)、ポリヘドラル(多面)など、彼には日本語で「多」を表す接頭語の「ポリ」がよく似合う。究極の「ポリ人間」であるコールハースは何でもかんでも全部自分でやってしまう。いや、やれてしまう。

もともと殺人スケジュールが組まれているうえに、人に任せるということもしないから、タスクが不可避的に増大していく。そんな人物のドキュメンタリー本を作ろうというのだから、書く方も大変だ。

本の帯には「世界を飛び回る建築家コールハースを追っかけ取材」とあるが、文字通り瀧口範子女史はロッテルダム、北京、ニューヨーク、ロサンゼルスと世界中をかけずり回りっている。

それはまるで、彼女の言葉を借りれば「追っかけ取材というよりは障害レース」とも言うべき様相を呈していて、読み終わる頃にはこっちも軽い金属疲労を覚えてしまう。

巻末には伊東豊雄のインタビューも掲載されているが、そのコメントを読むと「建築を知らない強さ」とか「建築的でないことが彼の魅力になっている」とか、建築家として規格外な存在であるコールハースを、さりげなくディスっているのも見逃せない。

世界で起こっているあらゆる社会的・経済的事象を鋭い洞察力で捉え、それをアーキテクトとして再構成・外化させるという「チャンス理論」的アプローチは、彼が建築という分野で巨大な思想家であり続けていることの証明である。

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