みゆき/あだち充

“兄妹の恋愛”という危険テーマをラブコメというオブラートに包みこむ、あだち充の話術

それにしても、あだち充の漫画に出てくる主人公って、どうしてあーも優柔不断な軟弱者が多いのかいな。

『みゆき』(1980年〜1984年)でもほ~んと、ハッキリしない若松真人にイライライライライライライライラさせられる。結局、「どっちのみゆきちゃんにするんだ!」って話で、延々と話を引っ張るんだから、確かにあだち充の話術が巧みであることを認めない訳にはいかない。

まあ大体あだち作品の主人公たちは、特にルックスがいいという訳でもなく。勉強も運動神経もサッパリというキャラクターが多い。そして間違いなくスケベであり、女のコの下着を見つけては「ムフ♪」なーんて喜んでいる、お気楽野郎である。

こういう等身大の男の子に、世のモテナイ君が自分に重ね合わせてしまうことは、必然(私もお含めて)。あだち充はそのような軟弱少年たちに、美少女との疑似恋愛を体験させる、天才的話術師なのだ(僕を含めて)。

『ナイン』(1978年〜1980年)でも『タッチ』(1981年〜1986年)でもそうなのだが、あだち充は決定的瞬間になると、照れ隠しのようなギャグを挿入してはぐらかす、という荒技を持っている。これはラブコメにはかなり有効的な手段で、「ドキドキ感」「トキメキ感」を演出する要因の一つだ。

タッチ 完全復刻版(1) (少年サンデーコミックス)
『タッチ』(あだち充)

この作品においても、若松とみゆきちゃんがキスするまでに何巻を要したことか!同じラブコメでも『東京大学物語』等とは決定的に質が違う。そこには甘酸っぱい青春の切なさと、ソフィスティケート感があるんである(『東京大学物語』なんて後半はほとんどエロマンガだったもんなあ)。

終わり近くなると若松の気持ちは次第に妹のみゆきに向いていき、プロサッカー選手の幼馴染みなるイケメンとの三角関係を軸に物語が展開していく。

ここまでくると「ラブコメ」の「コメ」の要素が希薄となり、おっそろしくシリアスなドラマに変貌してしまう。あだち充は物語にキチンとケリをつけるために、ラストでは実に丁寧に心象風景をなぞっていくのだ。

結局「コメディー」は真剣なラブストーリーを物語る照れ隠しに過ぎず、兄妹の恋愛という危険なテーマをオブラートに包むテクニックなんである。そういう意味でも、確かにあだち充の話術が巧みであることを認めない訳にはいかない。

DATA
  • 著者/あだち充
  • 発表年/1980年〜1984年
  • 掲載誌/少年ビッグコミック
  • 出版社/小学館
  • 巻数/全12巻

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