2026/4/4

『ZAZEN BOYS』(2004)徹底解説|“法被を着たレッド・ツェッペリン”による、唯一無二の我流ロック

『ZAZEN BOYS』(2004年/ZAZEN BOYS)
楽曲背景と意味を深掘り考察・批評・レビュー

10段階評価
8 GOOD
概要

『ZAZEN BOYS』(2004年)は、ZAZEN BOYSが発表したデビュー・アルバムであり、向井秀徳自身のプロデュースによって制作された。変拍子を多用した複雑なリズム隊のグルーヴと鋭角的なギター・カッティングが激しく交差し、ヒップホップやファンクの要素とオルタナティヴ・ロックのダイナミズムが自然に共存する。「Fender Telecaster」「KIMOCHI」「自問自答」などの楽曲が収録され、緻密に計算されたアンサンブルの中にヒリヒリとした緊張感と熱気が漂う。彼らが独自のバンド・サウンドと深く向き合い、日本のロック・シーンにおいて新しい領域を切り開いた一枚である。

目次

唯一無二の我流ロックの誕生

正直言って、ナンバーガールにはそこまで食指が動かなかった僕だが、ZAZEN BOYSが放つ圧倒的な音の暴力には脳天を完膚なきまでに打ち抜かれた。

2007年6月16日、雨の匂いが残る日比谷野外音楽堂でのワンマン・ライヴ。会社の同僚を無理やり引き連れて駆けつけたあの日、ステージ上で繰り広げられていたのは、まるでシャブ漬けになったハイテンション親父(もちろん褒め言葉です)による、唯我独尊のオンステージであった。

フロントマン向井秀徳の冷徹に研ぎすまされた知性と、酩酊状態のアッパラパーな狂気が渾然一体となって襲いかかってくる。これぞまさに、日本のロックシーンにおいて誰にも模倣することのできない「唯一無二の我流ロック」の極致なり!

そもそもこの変態的音楽集団は、秋田県秋田市出身の女性シンガーソングライターhalのバックバンドとして、向井秀徳と盟友アヒト・イナザワがリズム隊を務めたことを母体として結成されている。

そこにKicking the Lionの吉兼聡(ギター)による変態的カッティングと、ART-SCHOOLを脱退したばかりの日向秀和(ベース)によるウネるような重低音が加わり、最強の怪物バンドが始動した。

2003年のRISING SUN ROCK FESTIVALという大舞台での強烈なお披露目ライブを経て、2004年1月10日にドロップされた記念すべきデビュー・アルバムが、本作『ZAZEN BOYS』である。

向井秀徳が自らの理想とするバンド・サウンドを追求するために設立したプライベート・スタジオMATSURI STUDIOで、昼夜を問わずストイックにMatsuri Sessionをシバきアゲてきた彼らの音。

一切の妥協を許さないその鋭利なグルーヴと、異常なまでのアンサンブルの完成度は、当時の生温いギターロックにドップリと浸っていた邦楽リスナーたちの肝胆を、底の底から寒からしめたのである。

法被を着たレッド・ツェッペリンと、憑依するプリンスの魂

向井秀徳はかつて、ZAZEN BOYSのサウンドを自ら「法被を着たレッド・ツェッペリン」と不敵に評してみせた。

確かに、まるでお経や念仏ともおぼしき独特すぎる浪曲風のヴォーカリゼーションは、諸行無常やわびさびを歌い上げるシニカルな歌詞とも相まって、極めてドメスティックで純和風な世界観を構築している。

だが、騙されてはいけない。ヒップホップの凶悪なループ感、ソウル・ミュージックの熱量、そしてダブの狂気的な空間処理。ファンクネスを何よりも第一義に掲げたサウンドからは、濃厚すぎるR&Bの匂いがプンプンと漂ってくるのだ。

変拍子をいとも簡単に叩き出すアヒト・イナザワの複雑怪奇なドラミングと、日向のバキバキのスラップベースが絡み合う。そこに吉兼が鼓膜を切り裂くような轟音エレキギターをぶち込む。

そして、向井のドスの利いた絶叫の背後に見え隠れするのは、カーティス・メイフィールドやスライ&ザ・ファミリー・ストーンといった黒人音楽の偉大なる巨人たちの姿だ。

実際、アルバムの幕開けを飾るM-1「Fender Telecaster」や、名曲M-11「KIMOCHI」において、向井が唐突に披露する甲高いファルセット・ボイスなんぞ、ほとんどプリンスじゃんか。

聞くところによれば、向井秀徳は小学校低学年の時に、兄貴からプリンスのアルバムを無理矢理聴かされるという英才教育(という名のトラウマ)を受けていたらしい。

向井秀徳の根底にドクドクと流れるブラック・ミュージックへの異常なまでの偏愛は、ある意味で彼自身の最もピュアな原点回帰であり、それがZAZEN BOYSという超絶技巧の器を通して大爆発を起こした結果が、この恐るべきデビュー作なのである。

椎名林檎を召喚する『KIMOCHI』の魔力

そして、このアルバムを語る上で絶対に避けては通れないのが、今やZAZEN BOYSの代名詞的アンセムとなったM-11「KIMOCHI」の存在である。

鋭角的なギターカッティングと無機質でタイトなビートに乗せて、向井が「君に伝えたい KIMOCHI」とファルセットで不気味に歌い上げるこの狂気のラブソングは、ライヴの現場においてさらなる魔改造を遂げることになる。

なんと、公私ともに深い親交のある孤高の歌姫・椎名林檎をステージに召喚し、あの変態的なファルセット部分を彼女に歌わせるという、音楽ファン垂涎のコラボレーションがたびたび実現しているのだ。

僕がその奇跡の邂逅を初めて目撃したのは、たまたま深夜にテレビをつけていたフジテレビ系音楽番組『僕らの音楽』(2004年〜)でのスタジオ・ライブ。

張り詰めた異常な緊張感の中で、向井秀徳が一切の感傷を排したソリッドなギターソロを弾き狂い、そこに椎名林檎の圧倒的に艶やかでエロティックなヴォーカルがねっとりと絡みつく。

向井が紡いだあの「変態的リリック」と、圧倒的な表現力を持つ「孤高の歌姫」がブラウン管の向こう側でナイスな邂逅を果たした瞬間、僕の脳内ではドーパミンが限界突破して大洪水を起こしていた。それ以来、あの伝説のコラボ映像は僕のYouTube再生履歴の中で、永遠のヘビロテと相成ったのである。

『ZAZEN BOYS』は、ロックというフォーマットを借りてファンクとR&Bの極致へ挑み、日本の音楽シーンのど真ん中にデカデカと「MATSURI」の旗を突き立てた歴史的アルバムだ。

向井秀徳という天才が、腕利きのイカれた職人たちを集めて作り上げたこの音の要塞は、リリースから20年以上が経過した今聴いても、全く色褪せることなく僕らの脳天をカチ割りにやってくる。四の五の言わずに、爆音で再生して極限のMatsuri Sessionに身を委ねるべし。

アルバム情報
プレイリスト
  1. 1. Fender Telecaster
  2. 2. USODARAKE
  3. 3. The Days Of NEKOMACHI
  4. 4. YURETA YURETA YURETA
  5. 5. COLD SUMMER
  6. 6. 開戦前夜
  7. 7. INSTANT RADICAL
  8. 8. MABOROSHI IN MY BLOOD
  9. 9. IKASAMA LOVE
  10. 10. SI・GE・KI
  11. 11. KIMOCHI
  12. 12. WHISKY & UNUBORE
  13. 13. 自問自答
ZAZEN BOYS アルバムレビュー