『⊿(トライアングル)』(2009年/Perfume)
楽曲背景と意味を深掘り考察・批評・レビュー
『⊿トライアングル』(2009年)は、Perfumeの2枚目となるオリジナル・アルバム。プロデュースは前作に引き続き、中田ヤスタカが全面的に手がけた。前作『GAME』(2008年)で確立したエレクトロ・ハウスの路線をさらに洗練させた力強いビートに、3人の無垢な歌声が柔らかく溶け合っている。「love the world」(2008年)、「Dream Fighter」(2008年)、「ワンルーム・ディスコ」(2009年)といった大ヒット曲を収録。緻密に作り込まれた電子音でありながら、未来への期待や不安といった感情や、人間らしい温かみが感じられるのも特徴だ。
- 第51回日本レコード大賞:優秀アルバム賞
地下室から国民的アイコンへ
広島の小さなダンススクールから飛び出した、どこか垢抜けないローカル・アイドルだったPerfume。彼女たちは結成から8年という決して短くない月日を経て、見事に紅白歌合戦のステージへと上り詰め、リリースするシングルがことごとくチャートを席巻するようになった。
のっちやかしゆかの交際報道が週刊誌を賑わせるようになり(もちろん、あ〜ちゃんの笑顔も常にメディアの中心にあった)、気がつけば彼女たちは、誰もが知る押しも押されもせぬ国民的ポップ・グループへと成長を遂げていたのである。
かつてモーニング娘。がそうだったように、トップアイドルへと駆け上がった彼女たちの一挙手一投足は、世の熱心な音楽ファンやサブカルチャーを愛する若者たちの、絶好の分析対象となった。
そしてそれは同時に、彼女たちのすべての楽曲を手掛ける稀代のプロデューサー、中田ヤスタカがクリエイトする精緻なサウンドもまた、極めてアカデミックな構造分析のまな板に載せられることを意味していた。
前作『GAME』(2008年)において、それまでのチープで可愛らしいピコピコ路線から、重低音が響く本格的なハウシー・クラブ・ミュージックへと鮮やかに舵を切り、見事にオリコン1位をもぎ取った中田ヤスタカ。
彼が次なる一手として、実質的なサード・アルバム(オリジナル・アルバムとしては2作目)となる『⊿(トライアングル)』(2009年)を世に送り出すにあたって、果たしてどのような緻密な戦略を立てていたのだろうか。
リリース直後から、耳の肥えた熱心なリスナーたちによって、インターネット上には数え切れないほどのレビューが書き込まれた。その意見の多くは「前作から驚くような大きな方向転換はなく、ダンサブルなテクノ・ポップ・サウンドをさらにブラッシュアップさせた堅実な仕上がり」というものだった。
確かに、一聴した限りではサウンド面で過激な刷新が行われたようには感じられないかもしれない。しかし、ここでの中田ヤスタカの真の役割は、「いかに最先端の音を作るか」という単なるサウンド・クリエイションの枠をすでに超えていた。
マスの市場において、どれだけのポピュラリティーを維持し、さらに拡大できるかという、テレビやCMといったメディアミックス全体を見渡すトータル・コーディネーターとしてのフェーズへと、完全に移行していたのである。
巧妙なメディアミックスと、サウンドに隠された深層構造
その視点を持ってアルバムの深層を覗き込んでみると、本作がいかに計算し尽くされたポップ・アートであるかが浮き彫りになってくる。
幕開けを飾るM-1「Take off」は、かつて砂原良徳が『The Sound Of ’70s』(1998年)で提示したような、温かくもスペーシーなアナログ・シンセの響きが心地よいインストゥルメンタル。
そして、その航空機モチーフの滑走路からそのまま飛び立つように続くM-5「Night Flight」は、メンバー3人がレトロでキュートなキャビンアテンダントに扮して話題を呼んだ「エスキモー pino(ピノ)」のCMの世界観と、完璧なまでに共振している。
さらに、攻撃的なビートに乗せて「だんだん好きになる 気になる」という言葉が呪文のようにリフレインするM-4「edge」は、当時放送されていた彼女たちの冠バラエティ番組『Perfumeの気になる子ちゃん』のフレーズを意図的に忍ばせたもの。
クライアントの要望やメディアの文脈を、自身のクラブ・サウンドのなかにしれっと溶け込ませてしまうこの手つき。もはや清々しいほどの確信犯である。
そこへ、アッパーなイントロから一気にフロアを沸かせるM-2「love the world」、M-3「Dream Fighter」といった強力なシングル・ナンバーが惜しげもなく並ぶ序盤の構成は、国民的グループにふさわしい無敵の安定感。彼女たちのパブリック・イメージを裏切らない、キラキラとした多幸感と切なさが、見事な推進力となってリスナーを引っ張っていくのだ。
メインストリームの覇者としての自信
しかし、アルバムは中盤から後半にかけて、それまでの彼女たちにはなかった豊かなバリエーションと、少し大人びた影を見せ始める。
M-6「Kiss and Music」では、これまでのアップテンポなイメージを一転させる。ジャズやR&Bのテイストを感じさせるゆったりとしたダウンテンポのビートに乗せ、アダルティーで艶やかなリリックが紡がれる。少女から大人の女性へと移り変わる季節の香りが、音の隙間からじわりとにじみ出ているのだ。
続くM-8「I Still Love U」は、Perfumeの代名詞でもあったオートチューン(声の機械的加工)をあえて薄めに設定し、80年代を思わせる少し哀愁を帯びたユーロビート調のメロディを、生身のボーカルの魅力で聴かせる。
そしてM-10「Speed of Sound」では、バウンシーでファンキーなディスコ・チューンへと軽やかに流れ込んでいく。このシームレスで多彩な展開は、彼女たちの表現のパレットが確実に広がり、深みを増していることの何よりの証明である。
中田ヤスタカにとって、かつてのPerfumeは、自身の音楽的アイデアを自由に試すことができる「ラディカルな実験工房」のような場所だったのかもしれない。しかし、気がつけば彼女たちの存在は、日本の音楽シーンを牽引する巨大なポップ・アイコンへと成長し、ひとつの巨大産業にまで肥大化していた。
インディーズ時代の楽曲をまとめた『Perfume ~Complete Best~』(2006年)のようにマニアックなテクノ・ポップでもなく、中田自身のユニットであるCAPSULEのようなクラブ・ミュージックでもない。
あらゆるエレクトロニック・サウンドの歴史に目配せをしながら、それを誰もが楽しめる極上のポップスへと昇華させたのが、『⊿(トライアングル)』なのだ。
ここには、「日本のポップ・ミュージックのメインストリーム(王道)は、私たちである」という、Perfumeと中田ヤスタカの揺るぎない自信と誇りが、そこかしこに見え隠れしている。
いろいろと御託を並べてしまったが、結論は至ってシンプルだ。要するに本作も、彼女たちの魅力がたっぷりと詰まった「間違いのない大傑作!」ということです。
参考文献・出典
- アーティスト/Perfume
- 発売年/2009
- レーベル/徳間ジャパンコミュニケーションズ
- ジャンル/J-POP
- プロデューサー/中田ヤスタカ
- 1. Take off
- 2. love the world
- 3. Dream Fighter
- 4. edge < -mix>
- 5. NIGHT FLIGHT
- 6. Kiss and Music
- 7. Zero Gravity
- 8. I still love U
- 9. The best thing
- 10. Speed of Sound
- 11. ワンルーム・ディスコ
- 12. 願い
- Perfume ~Complete Best~(2007年)
- GAME(2008年)
- ⊿(トライアングル)(2009年)
- JPN(2011年)
- LEVEL3(2013年)
![トライアングル/Perfume[CD]](https://popmaster.jp/wp-content/uploads/51fTUlyDaEL._SS500-e1755420500842.jpg)