ホンネとタテマエの二重性を底意地悪くビジュアル化した、離婚ショウ
離婚訴訟を専門に扱う敏腕弁護士が、離婚を繰り返しては財産分与で富を得ようとする性悪女と恋に堕ちる…。
ジュリア・ロバーツとか、キャメロン・ディアスあたりがキャスティングされそうな、典型的なラブコメ・プロットなんだが、性欲、権力欲、金銭欲、ありとあらゆる人間の欲望をブーストさせて意地の悪いドラマに仕立て上げてしまうのがコーエン兄弟流。
ブラックユーモアをふんだんに盛り込んだクセのある作風は、『ディボース・ショウ』(2003年)でも踏襲されている。何てったって、原題が『Intolerable Cruelty(耐え難いほどの残酷さ)』。
イントロから、妻の不倫を発見したジェフリー・ラッシュがピストルを撃ちまくるという壮絶シーンであるからして、しょっぱなからテンションはフルスロットル。
最近はすっかりコーエン組のジョージ・クルーニーが、気持ち悪いぐらいにニカッと歯をみせて笑うシーンがやたら多いのだが(歯を漂白しているだけになおさら気持ち悪い)、
ドス黒い人間の欲望の内実をコーエン兄弟はこの笑顔に仮託している訳で、ホンネとタテマエの二重性を底意地悪くビジュアル化している。
コーエン兄弟の映画とあらば、トーゼン我々観客も身構えて鑑賞せざるを得ない。どんな手段を使っても裁判を有利に導こうとする冷血漢ジョージ・クルーニーが、ゼタ=ジョーンズと恋に堕ちるや一転して愛の戦士となり、スピーチで「Love is good」とノロケまくるんだが、こっちはハナからそれがブラフであることを見抜いている。
どれどれ時計を見てみると、まだ始まって70分程度か。ドラマはもう二転三転するな…と我々が展開を予測してしまうのは、裏を返せば製作者側と観客側との信頼関係があるからこそ。
コーエン兄弟も我々の予測を予測して、「殺し屋を雇って愛妻を殺害せんとする」というトンデモなプロットを用意、一秒先が読めないスリリングな展開を構築している。
それにしても、この映画のキャサリン・ゼタ=ジョーンズは良かったなあ。『マスク・オブ・ゾロ』(1998年)までは単なるフェロモン女優だと思っていたんだが(失礼)、お腹に子供を抱えたまま熱演したスティーヴン・ソダーバーグの『トラフィック』(2000年)あたりから一皮むけた印象。
女性描写の下手糞さでは定評のあるスピルバーグの『ターミナル』(2004)でさえ、不倫の恋に悩むフライト・アテンダントを活き活きと演じていたんだから、最近の女優開眼ぶりには目を見張るものがあります。
やっぱ女性の魅力が本当に滲み出て来るのは、30歳過ぎてからですね。
- 原題/Intolerable Cruelty
- 製作年/2003年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/100分
- 監督/ジョエル・コーエン
- 製作/イーサン・コーエン、ブライアン・グレイザー
- 製作総指揮/ショーン・ダニエル、ジェームズ・ジャックス
- 原案/ロバート・ラムゼイ、マシュー・ストーン、ジョン・ロマーノ
- 脚本/ロバート・ラムゼイ、マシュー・ストーン、イーサン・コーエン、ジョエル・コーエン
- 撮影/ロジャー・ディーキンス
- 音楽/カーター・バーウェル
- ジョージ・クルーニー
- キャサリン・ゼタ=ジョーンズ
- ジェフリー・ラッシュ
- セドリック・ジ・エンターテイナー
- エドワード・ハーマン
- ポール・アデルスタイン
- リチャード・ジェンキンス
- ビリー・ボブ・ソーントン
- ジュリア・ダフィ
- ジョナサン・ハダリー
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