ミッドセンチュリーモダンなポップセンスが光る、シカゴ音響派の最右翼
何だか一時期ものすごく「音」が邪魔に思える時期があった。
洗脳に近いほどテレビ・ラジオでくり返される産業ロック。洪水のように押し寄せてくる轟音の群れに、僕はすっかり辟易していたんである。そんな時に至福の出合いを果たしたのが、シカゴ音響派の最右翼ザ・シー・アンド・ケイクの『Nassau』(1995年)だった。
シュリンプ・ボートのヴォーカリストだったサム・プレコップと、そのベーシストのエリック・クラリッジ、さらにコミック・アーティストとしても有名なアーチャー・プレビット、プロデューサー・ミキサーとしても才能を発揮しているジョン・マッケンタイアらによる四人組バンドである。
静謐かつ浮遊感にあふれるナンバー。甘いマイナー・コードから発せられる音塊は、ゆるやかな螺旋を描いて深海にたゆたう。某音楽評論家はザ・シー・アンド・ケイクを「イームズの家具が部屋にポツンとある感じ」と評したが、まさに言い得て妙!
色鮮やかなカラーリング、有機的なライン。あのミッドセンチュリーモダンなポップセンスが、確かにザ・シー・アンド・ケイクの有するムダのない整合性と酷似している。
それにしてもポスト・ロックとかシカゴ音響派って、結局どういう音楽なんだろうね。サイトで検索してみたら、こんなん出ました。
もともとは、ステレオラブやシーフィール、メイン・アンド・プラムのようなバンドがつくり出すサウンドを、明確にカテゴリー化するために考案された言葉であったが、現在は音楽そのものを指すだけでなく、ロック・シーンに付随するカルチャーを含めたところでも使われている。
そして、それはしばしばダンス・ミュージックと混ざり合ったり、『電子音楽とアコースティック』『時代遅れのものと最先端のもの』、『絶えずリミックスされるものとローファイ』といった二律背反をみせる。
マウスのクリックひとつだけで音楽が完成するエレクトロニカがポップミュージック・シーンを覆い包み、作り手も聴き手もすっかりイオンの電磁波に浸かりまくっていた時代、音響派がやろうとしてたことって一服の清涼剤たる極上の快適音楽を提供することだったんじゃなかろうか。
僕も永年エレクトロニカ聴いてきたけど、中毒性はあっても持続性がない。ケミカルブラザースとかマッシヴ・アタックとか、瞬発的な勢いで覚醒させられてしまう感じがする。
しかし音響派の音楽って、和むんだよね。だから小洒落系カフェでザ・シー・アンド・ケイクとかトータスがかかったりするのは、極めて正しい選曲方法なのである。
まあ、とにかく黙って『Soft And Sleep』とか『Parasol』とか聴いてごらんって。柔らかくてあったかいタオルケットにくるまっているような、ヌクヌクするような感覚が味わえるでしょ。アンプにダイレクトにギターをつっこんだだけのシンプルなサウンド。
これぞ未来派ソフト・ロック。これは手放せんよ。
- アーティスト/The Sea And Cake
- 発売年/1995年
- レーベル/Thrill Jockey
- Nature Boy
- Parasol
- Man Who Never Sees a Pretty Girl That He Doesn’t Love Her a Little
- World Is Against You
- Lamonts Lament
- Soft and Sleep
- Cantina
- Earth Star
- Alone for the Moment
- I Will Hold the Tea Bag
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