「Still I’m gonna miss you」の気持ちを抱いて聴きたい、レイ・ハラカミ追悼盤
迫り来るフジロックの準備に忙しかった2011年7月27日、僕はネットであるひとつの短い文章を見つけてしまって、愕然とした。突然、泥棒に有り金を全部すられたくらいに。
レイ・ハラカミが脳出血のため亡くなった。享年40歳。
Twitter上では彼の死を悼む言葉で溢れかえり、レイ・ハラカミのmixiコミュニティでは追悼の言葉が次々に書きこまれた。フジロックのステージでは、ハラカミに近しいミュージシャンたちが彼への想いを述べ、その足跡を称えた。
コンゴトロニクスと一緒にライヴを行ったフアナ・モリーナが、「この曲をハラカミさんに捧げます」とMCしたときはかなりビックリしたが、よく考えてみれば2006年に恵比寿LIQUIDROOMでファナ・モリーナのライヴが行われたとき、そのオープニングアクトを務めたのがレイ・ハラカミであった。
大袈裟に聞こえるかもしれないけど、レイ・ハラカミがこの世から亡くなって、僕は日本の音楽を聴く理由のひとつが決定的に失われてしまった、と思った。
それだけ彼が紡ぐ電子音楽はワン・アンド・オンリーな異彩を放っていたし、その音の一粒一粒には、人肌程度の体温が宿っていた。もう僕たちは彼の新作に心ときめかすことはできない。それは残酷なまでに明快な“欠落”である。
しかし2011年12月14日、矢野顕子とレイ・ハラカミによるユニット「yanokami」名義2枚目のアルバム『遠くは近い』(2011年)と、そのインストゥルメンタル・アルバム『遠くは近い -reprise-』(2011年)が、僕たちの前に届けられた。
まさに、音楽の神様からのちょっぴり早いクリスマス・プレゼント。これを僥倖と呼ばず何と言おう!僕は敬虔な気持ちさえ抱いて、『遠くは近い』を拝聴しまくったんである。
まず、イントロ・ナンバーの『Don’t Speculate』からヤラれた。シンプルながら力強いリフが、ハラカミ流の浮遊感あふれるサウンドスケープで展開される。繊細なピアノがその間隙をぬうように入ってきて、サビ前にハイハットが重なる。そして矢野顕子の、ありったけの喜怒哀楽を詰め込んだキュートすぎるボーカルがスパーク!
思わず聴いていてカラダが上下運動してしまうほど、ロック感のあるナンバー。1stアルバムの『yanokami』に比べて、まずは歌モノとしての充実度がハンパないんである。
それは、全9曲中5曲がカバーであることにも顕著。M-2『曇り空』とM-8『瞳を閉じて』は荒井由実、M-4『Yes Yes Yes』はオフコース、M-6『Bamboo Music』は坂本龍一&David Sylvian、そして最後を飾るM-9『Ruby Tuesday』は何とローリング・ストーンズ!!
Goodbye, Ruby Tuesday
Who could hang a name on you
When you change with every new day
Still I’m gonna miss you
ミス・ルビー・チューズデイへの恋慕と別れを歌った『Ruby Tuesday』は、ローリング・ストーンズの数あるヒットナンバーのなかでも、ロマンティシズムと感傷性をたたえたバラードとして人気が高い。
yanokamiはそのスピリットは活かしつつ、ゆったりとしたテンポの、ドリーミーなエレポップとしてリ・ボーンさせている。僕たちはいつまでも「Still I’m gonna miss you」の気持ちを抱いて、このナンバーを聴き続けることだろう。
- アーティスト/yanokami
- 発売年/2011年
- レーベル/ヤマハミュージックコミュニケーションズ
- Don’t Speculate
- 曇り空
- See You Tomorrow
- Yes Yes Yes
- Don’t Speculate (rei_nuki U-zhaan_mori version)
- Bamboo Music
- yanokamintro
- 瞳を閉じて
- Ruby Tuesday
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