シャープでモダンな切れ味が痛快な、SFチック・ドタバタ活劇
『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)は、間違いなくアニメ史上に残る傑作である。だが、どうも「ルパン映画と言えば、カリオストロでキマリ!」みたいな語られ方はよろしくない。
あくまで『ルパン三世 カリオストロの城』はモンキー・パンチの手を離れた、宮崎駿によるルパン番外編。少女の無垢な愛情に応えることも出来ず、静かに退場していくルパンなんて本当のルパンじゃない!
ケチで大嘘つきでドスケベで、時には人を殺す事もためらわないハードボイルドな人間像こそ、モンキー・パンチが創り出したキャラクター、ルパン三世なのだ(宮崎駿が、『ルパン三世 カリオストロの城』でルパンにはっきりと人を殺させなかったのに注意)。
『ルパン三世 カリオストロの城』が、原作者モーリス・ルブランの作風に近い、ロマンシチズム漂うクラシックな作品だったのに対し、この『ルパン対複製人間』(1978年)はSFチック・ドタバタ活劇。
本編の影の主人公である謎の大富豪・マモーはカリブ海の孤島に自らの王国を築き、「永々の生命」を手に入れるべく自己複製を続けてきた。
数千年という永き時を経て蓄積された知識により、やがて彼は「神」にも等しい叡智を得るに至る。しかし彼は自己複製による「不老不死」の限界を知り、果てには第三次世界大戦の勃発をもくろむ。
不老不死イコール幸福なのかというテーゼは、まさに過去のSF作品でも盛んに使われてきたモチーフだ。このような哲学的なテーマを内包した物語を、監督の吉川惣司はシャープでモダン、なおかつデフォルメされたタッチで描き出す。
マモーの王国の風景が、キリコやサルバドール・ダリに代表されるシュールレアリスムで描かれているのも、五右衛門が斬鉄剣で敵を斬ると画面そのものもズレてしまうのも、エンディングに三波春夫センセイの「ルパン音頭」が流れるミスマッチも、すべてが実験的かつ前衛的なアプローチ。
『ルパン三世 カリオストロの城』と『ルパン対複製人間』の決定的な差は、序盤のカーチェイスで顕著に示される。『ルパン三世 カリオストロの城』はリアリズムを根底としながら、アニメならではの「嘘」に溢れたスピード感あふれるアクション描写だったが、『複製人間』に至ってはもうハチャメチャ。
明らかにデカすぎる巨大トラックもスゴイが、破壊されたガードレールをよじ登って元の山道に着地してしまうような荒唐無稽なシーンが満載。いかに作品としてハジけられるか、それこそがこの作品を語る上でのモノサシとなる。
やっぱルパンは赤いジャケットはおってなきゃダメ、ハードボイルドでシニカルな冒険活劇じゃなきゃダメ。『ルパン三世 カリオストロの城』もいいが、ルパン・ファンを自称するなら『ルパン対複製人間』は外せない。
- 製作年/1978年
- 製作国/日本
- 上映時間/102分
- 監督/古川惣司
- 脚本/古川惣司、大和屋竺
- 製作/藤岡豊
- 原作/モンキー・パンチ
- 作画監督/椛島義夫
- 音楽/大野雄二
- 撮影/黒木敬七
- 美術/阿部行夫
- 山田康雄
- 増山江威子
- 小林清志
- 井上真樹夫
- 納谷悟朗
- 西村晃
- 大平透
- 富田耕生
- 三波春夫
- 赤塚不二夫
- 梶原一騎
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