電子の音塊と自然界のざわめきがDNAレベルで奇跡的な結合を果たした、ミニマルな音像
小山田圭吾は、おそらく自分でも気付かないうちに、「J-POPのトップランナーとしての役割」を与えられてしまったんじゃないだろうか。
フリッパーズ・ギターで一躍ポップ・スターとして認知されると、一躍ピチカートと並ぶ渋谷系の最右翼に。その発言・活動のすべてが、「OLIVE」を購読していたようなオサレ文科系女子に熱狂的に迎えられ、ライフスタイルの指標として憧れる存在となってしまったのである。
やがて ソロとして一人ユニット「コーネリアス」としての活動を始めた後も、彼は常にアバンギャルドであることを期待され、時代の預言者として最先端のクリエイトを期待される。
しかし小山田は、シティポップからの系譜を継ぐ「都市型オンガク」を90年代的なアプローチで再現してみせた小沢健二とは異なり、自らの音楽的資質をあらゆるスタイルで乱反射し始めた。
ソフト・ロックの王道をひた走った1stの『ファースト・クエスチョン・アワード』(1994年)、ヘヴィ・メタルをコーネリアス的解釈で咀嚼した『69/96』(1995年)、音響系にシフトチェンジした『ファンタズマ』(1997年)。
脳内ハードディスクに貯蔵された膨大な音楽知識を、彼は圧倒的なスキルとセンスでまとめあげてみせたのである。
そして’01年に発表された4枚目のアルバム『point』(2001年)。ミネラルと良質イオン水がたっぷり詰まった、Jポップの歴史に燦然と輝くマスターピース。この作品には、瑞々しい生命の息吹が脈動している。
電子の音塊と自然界のざわめきがDNAレベルで奇跡的な結合を果たし、水泡や鳥のさえずりの音にハッとさせられる…。
小山田の膨大な音楽的教養が、試行錯誤を繰り返しながら洗練され、最終的にミニマルな音像に回帰した。ここが彼の求めた安住の地であったのだ。
M-1『Bug』に耳をそばたててみよう。ピアノの単音がピロンと鳴らされ、また静寂に戻る。次第に、カッティング・ギター、クラッシュ・シンバル、鼻歌、あらゆるマテリアルが有機的にコラージュされ、M-2『Point Of View Point』へとシームレスに繋がっていく。このナンバーも音数を極端に減らした音響設計だが、あらきゆうこのグルーヴ感溢れるドラムが、鮮やかな色彩を添える。
一転してM-3『Smoke』ではキレのいいカッティング・ギターがリズムを刻み、M-4『Drop』では湧き水のような自然音をバックに、小山田圭吾のカットアップされたコーラスがレイヤー状に重なっていく。
音数は少なく。音と音のあいだに横たわる“間”に、豊穣さを見出せるような音楽を。ラストを飾る『Nowhere』に至るまで、精緻なサウンド・デザインが施されているのだ。
最近ではSketch Showや坂本龍一のアルバムにも参加するなど、すっかりエレクトロニカ系。ある意味で、YMOメンバー(細野晴臣・高橋幸宏・坂本龍一)という巨人たちの羅針盤的役割を担っている。
- アーティスト/Cornelius
- 発売年/2001年
- レーベル/トラットリア
- Bug
- Point Of View Point
- Smoke
- Drop
- Another View Point
- Tone Twilight Zone
- Bird Watching At Inner Forest
- I Hate Hate
- Brazil
- Fly
- Nowhere
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