『Point』(2001年/コーネリアス)
楽曲背景と意味を深掘り考察・批評・レビュー
『Point』(2001年)は、コーネリアスが発表した4作目のアルバムであり、小山田圭吾自身のプロデュースによって制作された。水滴の音や鳥の鳴き声といった自然環境音とアコースティック楽器の響きが柔らかく溶け合い、緻密なプログラミングと立体的な空間設計が自然に共存する。「Point of View Point」「Drop」「Smoke」などの楽曲が収録され、洗練された音響構築の中に有機的で静謐な温度が漂う。彼が音の配置や質感というテーマと深く向き合い、エレクトロニック・ミュージックの新しいサウンド領域を切り開いた一枚である。
渋谷系の王子様から、音響系の求道者への劇的進化
小山田圭吾は、おそらく自分でも気付かないうちにJ-POPのトップランナーという、あまりにも重い役割を背負わされてしまったのではないか。
フリッパーズ・ギターで一躍ポップ・スターとしてシーンに躍り出るや、ピチカート・ファイヴと並ぶ渋谷系の代表格に。彼の発言や活動、そのファッションのすべてが、雑誌Oliveを愛読するようなオサレ文科系女子に熱狂的に迎えられ、世代のライフスタイルの指標として猛烈に憧れられたのだ。
やがて1993年にコーネリアスとしてのソロ活動をスタートさせた後も、彼は世間から常にアバンギャルドであることを求められ、時代の預言者として最先端のクリエイトを期待され続けた。
しかし小山田は、シティ・ポップの系譜を継ぐ都市型オンガクを90年代的なアプローチで再現してみせた盟友・小沢健二とは全く異なるベクトルへと進んでいく。自身の脳内ハードディスクに貯蔵された膨大な音楽知識を、彼は圧倒的なスキルとセンスで、あらゆるスタイルに乱反射させ始めたのだ。
ソフト・ロックの王道をひた走った1stアルバム『The First Question Award』(1994年)、ヘヴィ・メタルをコーネリアス的解釈でド派手に咀嚼した『69/96』(1995年)、そしてサンプリングの嵐で音響系へと鮮やかにシフトチェンジした『FANTASMA』(1997年)。
彼は時代が求める期待を軽々と裏切りながら、独自の音楽的宇宙を完璧にまとめあげてみせたのである。
水と電子音が交歓する、究極の「引き算の美学」
前作から4年の沈黙を経て、2001年に発表された4枚目のアルバム『point』。これは控えめに言っても、たっぷりミネラルと良質なイオン水が詰まった、J-POPの歴史に燦然と輝く究極のマスターピースである。
このアルバムには、瑞々しい生命の息吹が細胞レベルでドクドクと脈動している。かつての過剰なサンプリングや情報過多なポップさは綺麗に削ぎ落とされ、電子の音塊と自然界のざわめきがDNAレベルで奇跡的な結合を果たしているのだ。リスナーは、耳元で弾ける水泡や鳥のさえずりの生々しい音に、幾度となくハッとさせられることになる。
小山田の膨大な音楽的教養が、長きにわたる試行錯誤の果てに極限まで洗練され、最終的に辿り着いたミニマルな音像。これこそが、彼の求めた真の安住の地であったのだ。
オープニングを飾るM-1「Bug」に耳をそばだててみよう。ピアノの単音がピロンと鳴らされ、再び静寂に戻る。次第に、カッティング・ギター、クラッシュ・シンバル、そして彼自身の鼻歌まで、あらゆるマテリアルが立体的かつ有機的にコラージュされ、そのままM-2「Point Of View Point」へとシームレスに繋がっていく。
このナンバーも音数を極端に減らしたストイックな音響設計だが、あらきゆうこが叩き出すグルーヴ感溢れる生ドラムが、無機質な電子空間に鮮やかな生命の色彩を添えているのだ。
一転してM-3「Smoke」では、ナイフのようにキレのいいカッティング・ギターが小気味よくリズムを刻み、M-4「Drop」では、湧き水のような自然のドロップ音をバックに、小山田の細かくカットアップされたコーラスが美しいレイヤー状に重なっていく。
音数は極限まで少なく。そして音と音のあいだに横たわる無音の間”にこそ、圧倒的な豊穣さを見出す。ラストを飾る「Nowhere」に至るまで、文字通り針の穴を通すような精緻なサウンド・デザインが施されている。
YMOの巨人たちをも導く、エレクトロニカの羅針盤
『point』で極めたこのストイックな音響と空間の美学は、小山田圭吾というアーティストの立ち位置を、単なる日本のポップ・スターから、世界基準のサウンド・クリエイターへと完全に押し上げた。
このアルバム以降の彼は、自らの音を深掘りするだけでなく、日本の電子音楽の歴史を創ったあのYMOのメンバーたちと深く共鳴していくことになる。
細野晴臣と高橋幸宏によるエレクトロニカ・ユニット、スケッチ・ショウへの参加。坂本龍一のアルバムにおける重要なギタリストとしての抜擢。
かつてポップス界の異端児だった小山田は、いつしかすっかり先鋭的なエレクトロニカ系の求道者となり、ある意味で細野・高橋・坂本という伝説の巨人たちが進むべき未来を指し示す「羅針盤」のような役割すら担うようになった。
渋谷系の王子様が、長い旅の果てにたどり着いた『point』という名のオアシス。この水のように透き通った音響空間は、20年以上が経過した今聴いても全く色褪せることなく、我々の乾いた鼓膜と脳髄を極上のマイナスイオンで潤し続けてくれる。
- 1. Bug (Electric Last Minute)
- 2. Point Of View Point
- 3. Smoke
- 4. Drop
- 5. Another View Point
- 6. Tone Twilight Zone
- 7. Bird Watching At Inner Forest
- 8. I Hate Hate
- 9. Brazil
- 10. Fly
- 11. Nowhere
- Point(2001年/トラットリア)
- Mellow Waves(2017年/ワーナーミュージック・ジャパン、ロストラム・レコード)
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