『ポトフ 美食家と料理人』考察/解説レビューをblock.fmに寄稿しました

『ポトフ 美食家と料理人』“触覚”を刺激する、美味礼讃・人生礼賛ムービー」という考察/解説レビューをblock.fmに寄稿しました。

“触覚”の映画。トラン・アン・ユンの長編映画デビュー作『青いパパイヤの香り』(1993年)を観た時、筆者はそんな感想を抱いた。10歳の少女ムイが、包丁でパパイヤを削いだり、その種を指でつまんだりする、瑞々しい手触り。画面から放たれる色や、光や、音。まるでサイレント映画のように極端にセリフの少ない作品でありながら、ワンカット、ワンカットが五感に訴えかけてくる。

“映像詩人”と呼ばれるフィルムメーカーは数多くいるが、トラン・アン・ユンはその中でも頭ひとつ抜けた才能だろう。ベトナムに生まれ、パリで育った彼の鋭敏な感性は、他の追随を許さない。前作『エタニティ 永遠の花たちへ』(2016年)から7年、待望の新作となる『ポトフ 美食家と料理人』(2023年)もまた、彼のインターナショナルな映像感覚が十二分に発揮された傑作。世界中から高い評価を受け、第76回カンヌ国際映画祭では最優秀監督賞に輝いた。

この映画は、オープニングから観る者を圧倒する。舞台は、19世紀末フランス。美食家として知られるドダン(ブノワ・マジメル)は、天才料理人のウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)と共に、調理場で午餐会の準備をしている。お湯が沸き立つ音、フライパンで火にかける音、井戸から水を汲み上げる音。窓から優しいオレンジ色の光が差し込み、扉の向こうからは、うっすらと鳥の囀り声や猫の鳴き声が聞こえてくる。室内を満たすのは自然音のみで、劇伴はいっさい流されない。

ぜひご一読ください!

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