水島新司オールスター・キャスト夢の競演
365日野球のことばっか考えている水島新司センセイは、現実と自分の造り出した幻想がゴッチャになっている、軽いパラノイア状態だと思う。
『大甲子園』(1983年〜1987年)は自分の生み出した偉大なプレイヤーたち…山田太郎、中西球道(『球道くん』 1977年〜1981年)、真田一球(『一球さん』 1975年〜1977年)、三郎丸三郎(『ダントツ』 1982年〜1983年)、藤村甲子園(『男どアホウ甲子園』 1970年〜1975年)…といった面々を一堂に介し、トーナメント方式で戦わせてしまおうという、おそろしく個人的趣味に走りまくった作品である。
それぞれのキャラクターが水島野球漫画の主人公たちなのであるから、全員のポテンシャルは等しく一緒である…と普通なら思うことだろう。ましてや、生みの親である作者ならなおさらだ。しかし彼は甲子園という自分のフィールドで、明訓高校にエコヒーキしまくった作品を描きあげてしまった。
長男が一番可愛くて、あとの次男・三男・四男は眼中にない、といったような案配である。おいおい、それってあまりにも節操がないんじゃないかい。ある意味ではこのオヤジは幸せな野球バカである。
という訳で、本作の最大の見物は、“球道くん”こと中西球道対“ドカベン”こと山田太郎である。自らが創りだした最強のピッチャーと、最強のバッターを対決させてしまおう、という訳だ。
両スーパースターの夢の対決がたやすく終わる訳もなく、延長18回戦っても決着がつかずに試合は翌日に繰り越し。なんと結局フルイニング27回を要して明訓高校が辛勝するのである。
球道くんにいたっては27回ずーっと投げっぱなし。しかもほとんど全力投球のストレートなもんだから(さすがに最後は変化球を混ぜてきたが)、そのスタミナたるや恐るべし、である。
しかし球道くんのスゴさはそれだけではない。引き分け再試合の登板で、何と自己最高の163キロを計測!おいおい、いくらマンガだからっつーてもそりゃナイだろ。
水島センセイは緻密な試合展開を描きつつ、時々このような破天荒なストーリーを何の臆面もなく挿入してしまうんだから、恐れ入る。とにもかくにも、マンガとしてのカタルシスに満ちた水島野球の総決算、それが『大甲子園』であることに間違いはないだろう。
- 著者/水島新司
- 発表年/1983年〜1987年
- 掲載誌/週刊少年チャンピオン
- 出版社/秋田書店
- 巻数/全26巻
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