“1927年のニューヨークのせわしなさは、ヒステリーの一歩手前とでも評すべきものであった。かくのごとく浮かれ騒ぐ街にあっては、たゆまぬ努力など一文の値打ちもない。”
F・スコット・フィッツジェラルドの小説『My lost city』の一節にあるとおり、1920年代のアメリカは好景気に沸く黄金時代だった。
自動車、鉄鋼といった基幹産業が経済を牽引。1929年の「暗黒の木曜日」でバブルがはじけるまで、あらゆる消費者の欲望がダイナミックに錯綜する、爛熟たるディケイドだったのである。
享楽的で刹那的な価値観がアメリカを覆い尽くしたジャズ・エイジ。『華麗なるギャツビー』には、そんな祝祭的な気分がべったりと貼り付いている。
「ブルジョワジーの退廃」というといかにもヨーロッパ的だが、この映画におけるその腐り方はデカダンなものではなく、淡々と退廃している。神経症的に退廃することに溺れる、とでも言うべきか。
要はこの映画、「貧乏青年が一発奮起して金持ちになり、昔の恋人を迎えに来る」というえらいセンチメンタルな話なんだが、いまいちドラマとしてのベクトルが見えにくい。
一般ピープルの代弁者ニック・キャラウェイの視点を通して物語が進行するにもかかわらず、階級社会の醜悪さ、俗物根性に対する怒りみたいなものが、相対的に浮かび上がってこないんである(ニックが『みんなバカだー!!』と吐き捨てるシーンは良かったけど)。
これは憶測だが、脚本を担当したフランシス・フォード・コッポラは、ジャズ・エイジの時代描写と恋愛ドラマとのバランスに相当苦心したのではないか。
しかし、この物語は悲劇でしか終着しない。ロバート・レッドフォードがピストルで射殺された瞬間に、古き良きオールド・デイズは音もなく崩れ、アメリカのイノセンスは氷解したのである。
ミア・ファロー、ブルース・ダーンと、ブルジョワジーな奴らをいかにもアクが強い役者で固めているが、この映画で最もエキセントリックな光を放っているのが、カレン・ブラック。彼女の顔芸の凄まじさは特筆に価する。
久々に、鬼気迫る女優根性を見た思いなり。
- 原題/The Great Gatsby
- 製作年/1974年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/141分
- 監督/ジャック・クレイトン
- 製作/デヴィッド・メリック
- 原作/F・スコット・フィッツジェラルド
- 脚本/フランシス・フォード・コッポラ
- 撮影/ダグラス・スローカム
- 音楽/ネルソン・リドル
- 衣装/セオニ・V・アルドリッジ
- ロバート・レッドフォード
- ミア・ファロー
- ブルース・ダーン
- カレン・ブラック
- スコット・ウィルソン
- サム・ウォーターストン
- ロイス・チャイルズ
- パッツィ・ケンジット
- ロバーツ・ブロッサム
- ハワード・ダ・シルヴァ
- キャスリン・リー・スコット
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