力強く“希望”を提示した、堂々たるイーストウッド作品
齢70を過ぎてからさらに創作意欲に拍車がかかり、マスターピースを連発している我らがイーストウッドだが、記念すべき30本目の監督作品にあたる『インビクタス/負けざる者たち』(2009年)もまた、遥かな高みに達した傑作である。
いやもう何というか、これだけエネルギッシュに頑張っておられるイーストウッド翁の姿を見せつけられると、「日々惰性で生きていてスイマセン!」と理由もなく謝りたくなる。ほんとスイマセン。
長い間、アパルトヘイト政策で人種差別がまかり通っていた南アフリカ。新しく大統領に就任したネルソン・マンデラは、黒人と白人の和解のシンボルとして、ラグビーチーム「スプリングボクス」の奮起を期待する。
…という政治的背景はあれど、『インビクタス/負けざる者たち』は、典型的なスポーツ映画の構造を有している。弱小チームがめきめきと強くなっていって、奇跡の勝利を呼び起こすというのは、あまりに陳腐で様式化されたスタイルではあるのだが。
だがクリント・イーストウッドの手にかかれば、様式化されたスタイルは刷新され、全てのショットが神々しい光を放つ。
スプリングボクスとオールブラックスによるワールドカップ決勝戦のシークエンスなんぞ、スローモーションの多用といい、熱戦を繰り広げる選手たちと熱狂する観衆との切り返しといい、やってることはかなりベタベタなんだが、一切の迷いのない王道的演出に思わず身を乗り出してしまうんである。
テロリストらしき人物が操縦桿を持ったジャンボ機が、巨大スタジアムに急接近するシーンは、「すわ、トマス・ハリスの『ブラック・サンデー』(1977年)的展開!?」なんてことを観客にミスリードさせるなど、骨太さに加えて茶目っ気もアリ。このあたりのセンスは、『グラン・トリノ』(2008年)あたりで顕在化してきたユーモアだ。
狭い牢獄に27年間も投獄されていた、ネルソン・マンデラ。彼を評してイーストウッドは、「まるで人間の本性に反しているかのような人物。普通なら出所したらすぐ看守に復讐でもやらかしそうなのに、彼は赦すことに人生の意義を見つけた」と語っている。
『許されざる者』(1992年)や『ミスティック・リバー』のような復讐劇ではなく、さらにそこから一歩突き抜けたところに、現時点でのイーストウッドの居場所がある。
『インビクタス/負けざる者たち』は、彼にとって最も大きな主題である“希望”が、最も分かりやすい形で明示された作品といえる。
- 原題/Invictus
- 製作年/2009年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/132分
- 監督/クリント・イーストウッド
- 製作/クリント・イーストウッド、ロリー・マクレアリー、ロバート・ローレンツ、メイス・ニューフェルド
- 製作総指揮/モーガン・フリーマン、ティム・ムーア、ゲイリー・バーバー、ロジャー・バーンバウム
- 原作/ジョン・カーリン
- 脚本/アンソニー・ペッカム
- 撮影/トム・スターン
- 美術/ジェームズ・J・ムラカミ
- 編集/ジョエル・コックス、ゲイリー・D・ローチ
- モーガン・フリーマン
- マット・デイモン
- スコット・リーヴス
- ザック・フュナティ
- グラント・L・ロバーツ
- マルグリット・ウィートリー
- トニー・キゴロギ
- パトリック・モフォケン
- マット・スターン
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