ジュラシック・パーク/スティーヴン・スピルバーグ

特撮映画の歴史を塗り替えた、スピルバーグの代表作

静止した物体を1コマずつ動かすことによって、連続した動きに見せるストップモーション・アニメを開発したのは、“世界初の職業映画監督”と称されたジョルジュ・メリエス氏である。

1902年に製作された世界初のSF映画『月世界旅行』は、パリの紳士淑女の度肝を抜いた。月面にロケットが不時着、思わずお月さまが顔をしかめる…という映像は、映画ファンなら一度は目にしたことがあるはず。

この特撮テクニックをさらに洗練させたのが、“20世紀の特撮技術の歴史を作った男”レイ・ハリーハウゼン氏。彼は、骨格が可動式のミニチュア人形を使って撮影を行い、恐竜や宇宙生物がダイナミックに暴れまわる映像を創り上げた。

『原子怪獣現わる』(1953年)、『シンドバッド七回目の冒険』(1958年)、『アルゴ探検隊の大冒険』(1963年)といった傑作群は、かのようにして産み落とされたんである。

ストップモーション・アニメの歴史は、怪獣映画の歴史。当然のごとく、マイケル・クライトンによる大ベストセラー小説『ジュラシック・パーク』も、映画化に当たっては、ストップモーションを大々的に導入することに。

スティーヴン・スピルバーグは、盟友ジョージ・ルーカス率いる特殊効果専門スタジオILMに、特撮撮影を依頼。『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』で、帝国軍のAT-ATスノーウォーカーが進撃するシーンを製作した、フィル・ティペットがその任に当たる…はずだった。

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しかし事態は、試しに作ったCGによる恐竜の映像が、想像以上に素晴らしかったことで急転する。そもそもコンピュータ・グラフィックスなんてものは、無機質なオブジェクトしか扱えないシロモノだった。

1982年に世界初のフルCG映画『トロン』が公開されたが、ディズニーランドのエレクトリカルパレードのような、光に溢れた近未来SF的世界観だからこそ、全編CGでもオッケーだったんである。

しかしジェームズ・キャメロンが、『アビス』、『ターミネーター2』(1991年)において、CGで液体状生命体を描くという前代未聞の映像的冒険にチャレンジ。一気にコンピュータ・グラフィックスの可能性が押し広げられた。

『ジュラシック・パーク』は、間違いなく特撮映画の歴史を塗り替えた一本である。恐竜のウロコ肌の質感、重量感までもがCGで再現され、100年前に『月世界旅行』でパリの紳士淑女が仰天したのと同じように、現代の我々のド肝を抜いた。

陽光を燦々と浴びながら、悠然と草をはむブロントサウルス!呆然と恐竜を見上げるグラント博士(サム・ニール)たちと同じように、我々も「こんな映像があり得るのか」と口をアングリさせて画面に見入ったのだ。

静止ショットのみならず、その動きも現実と見間違うばかりの精巧さ。僕は今でもはっきり覚えてるんだが、隣にいた中年主婦が、ティラノザウルスの咆哮に怯えまくり、ヴェロキラプトルの残虐非道さに悲鳴をあげていた。

また『ジュラシック・パーク』は、明らかに『激突!』、『ジョーズ』の系譜を継ぐ作品である。トラックやサメを恐竜に置換しただけで、基本フォーマットは全く一緒。

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スピルバーグが『ジョーズ』の監督を引き受ける時の唯一の注文事項が、「映画が始まって一時間はサメを出さないこと」だったそうだが、『ジュラシック・パーク』でも恐竜はなかなか登場せず、観客をうまくジラす。しかしこの作戦は、スピルバーグのある信条から生まれたものだ。

観客は我々が思うよりはるかに想像力にみちあふれている。それを利用しない手はない

けだし、名言!!誰よりも映画文法を知り尽くしたスピルバーグの発言だけに、流麗なカメラワークよりも観客のイマジネーションを信用しているというのは、実に面白い。

クライマックスのあっけなさすぎるとか、サム・ニール演じる学者(もともとこの役にはハリソン・フォードが候補にあがっていたそうだが、ギャラが高いという理由で格安のサム・ニールに交替したらしい)がキャラ立ちしてないとか、いろいろイチャモンをつけたくなる映画ではありますが、ここまで純粋にエンターテインメントしてくれる恐竜映画は、レイ・ハリーハウゼンが活躍して以降数十年間なかった。

本作は、それだけでも賞賛に値すると思います。

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